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終わりと,始まり 〜2012近畿地区戦第4戦〜


小さいながら一戸建ての家を買ったらたまたまガレージが2台分ある。チャンス到来!ってことで嫁さんを拝み倒して中古のインテグラ・タイプRを購入,10年ぶりにジムカーナ界に復帰したのが2004年の夏のこと。

あれはちょうど40歳になる直前のことでした。だからこのサイトも「Project不惑」と名づけました。ただ,あれからもう8年も経ってしまって,今は不惑どころかもう50歳が目の前ですが。


8年間,いろいろありましたねえ。


自信満々で復帰したけどさすがに10年のブランクは大きくてなかなか結果が出ず,初めて10位に入ってシリーズポイントを1点もらった時には嬉し泣きしましたっけ。

「夏の終わりに」


嫁様の目を盗み内緒で有給とって某ヶ原まで練習に通い,ドライブシャフトをバキバキ壊しながら腕を磨きました。毎回嫁様にバレないか冷や冷やしながらの練習行でした。

「謎の研修旅行」


翌シーズン,何とかコンスタントに入賞できるようになったものの,なかなか表彰台には上がることができず,しょげ返ってるところを嫁さんの笑顔に励まされたこともありました。

「おとーさん in Suzuka」


公式戦復帰3年目の開幕戦,姫センでとうとう表彰台のてっぺんに立ちましたが,次戦には最終出走のプレッシャーで入賞圏外にこぼれ,シリーズポイント挽回を焦って無理な練習をする中で大クラッシュ,不惑インテは廃車になってしまいましたねえ。

「初優勝は突然に」
「さようなら,不惑インテ号」


辛い浪人生活を送りながらも嫁様にゴマをすりまくって誓約書まで書いて,半年後に何とかデミ助を購入することができました。

「誓約書」
「デミ助@初期調教中」


ところが今度はちょうど息子の中学受験と重なってしまって活動自粛せざるを得ず,デミ助のデビュー戦のG6も嫁様との大ゲンカの末でした。

「本当の闘い」
「お受験」


翌年春,息子の受験が終わって,晴れて公式戦に復帰することができましたが,開幕戦は1本目PTに2本目ドラシャ折れで生まれて初めて最下位を食らいました。その後も1年半のブランクのためなかなか結果が出ず,夏場の第5戦にしてやっと優勝できた時には感極まって大号泣してしまいました(汗)。

「鈴鹿でドラシャを折ってみる」
「中年の星?」


そのまた翌年春,自信がなくってエントリーするにも悩んだぐらいでしたが,思い切って出場した全日本の特設S1500クラスでは大金星の優勝。その後,父親が亡った直後,弔い合戦になった地区戦でも何とか白星を捧げることができました。

「おとーさんの宝物」
「夜空に輝く星」


そして一昨年,いよいよ10年ほど勤めた職場を離れ,独立開業しました。開業した理由の中にはもっと自由に走れる環境を求めて,という面もあったのですが,事業が軌道に乗るまでは活動自粛。競技活動としては「さあこれから」というタイミングだったのですがやむを得ません。

「解放」


そして昨年秋。1年以上のブランクを乗り越えてミドル戦で実戦復帰。一冬リハビリを重ねてやっとこの春地区戦に復帰...と。

「ダメダメな日」(2012年開幕戦)


思えば40歳以降,人生の様々な荒波にもまれながらも8年間走り続けてきました。
長期のブランクが2回もありながら,それでも何とかコースに戻ってきました。

クルマが好きで,レースが好きで,そして自分の普段乗りの愛車で参加できるジムカーナというモータースポーツが好きで...だから何度でもまた走りだすことができたのでしょう。

今も自信を持って言い切れます。ジムカーナが大好きだと。


・・・・・・


しかし...ただ大好きというだけで物事はうまく運びません。

今シーズンの苦戦は,予想されていたこととはいえ,50歳目前のくたびれたオッサンの気持ちを凹ませ意気を挫くのに十分なものがありました。1年半,おとーさんがずっと仕事にかまけていた間もライバルたちは走り続け,格段の進化を遂げていました。決して現実は甘くありません。

また本業はあくまで忙しく,日常のお仕事以外にも胃が痛くなるようなプレッシャーのかかる用事が次々に舞い込んできます。経済の主権を取り戻したことでクルマにお金をかけることは以前よりも簡単になりましたが,その分,お金に関する雑事は勤め人時代よりはるかに多くなりましたし,お金を使うことについてもシビアになりました。ぼちぼち老後の経済設計なんかも考えておかねばなりませんしね。

嫁さんは家のこと子供のことに加えてクリニックの事務仕事もよく手伝ってくれてます。休みの日に嫁さんと出かけていると,家のこと子供のことだけでなく仕事についてもいろいろと大事な話をすることがあり,人生のパートナーというのはこういうヤツのことを言うんだなとしみじみ思います。

小さかった子供たちもいつのまにか高校生と中学生になり,思春期の中で自分たちの世界を築き始めています。家族4人で過ごす時間はだんだん残り少なくなってきています。今はもっと家族と一緒に過ごす時間を大事にすべきではないのか,日曜日にオッサン一人走りに行ってガソリンとタイヤ無駄使いしてる場合じゃないのではないか,そんな気持ちが胸を衝きます。


もう,ぼちぼち,ガチで走るの止めようかな...

走るの止めたらラクになるだろうな...

そんな気持ちが心のどこかからふわーっと拡がってきて,その度に「何を言うてるねん! もう一度表彰台のテッペンに立つんやないのか! 全日本のレギュラーのクラスに出て表彰台に乗りたいんと違うんか!」と振り払う...そんな繰り返しの中でジムカーナ近畿地区戦第4戦@奥伊吹モーターランドを迎えました。



それでも走り自体に関しては,前回の第3戦で2位に入ったことである程度自信を取り戻すことができました。名阪Cコースのように走り慣れた場所であればブランクの影響はなくなり,ほぼ自分の全盛期の状態で走れるようになったと思います。また今回のようなフルパイロンの大会についても,かつてミドルの姫センに2回出場して2回とも優勝しており,決して苦手意識はありません。

今シーズン,他のコースではとても勝ち目がなくても,ここでなら,フルパイロンなら勝てるかもしれない。

前回2位に入ったことで首の皮一枚つながったシリーズポイントも,ここで勝てればまだ挽回可能。何とかシリーズリーダーへの道が残ります。逆に言えば,ここで沈めばもう今年のシリーズは確実に終了。つまりここ奥伊吹がおとーさんにとって今シリーズ一番の天王山ってこと。

走るの止めようかな,なんて言ってる場合じゃない! ここでがんばらねば男が廃る。

大会前の水曜日,嫁様の目を盗んで短時間ながら某所で若干のパイロン練習を敢行。心の中に時おりふわーっと拡がる,家族に対する罪悪感と「引退」への誘惑を,必死で振り払いながら当日の朝を迎えました。



前日からの雨がまだ少し残っていて,時おり曇り空からパラパラっと水滴が落ちてくるイマイチな空模様。それでも路面はほぼドライの状態です。予報ではお天気は回復に向かっており,どしゃ降りになるようなことはなさそうですが,こういう山間部では何が起こるか分かりません。とりあえず1本目で大冒険せず,タイムを残しておくことが大事。


コースは同じフルパイロンとはいえ姫路とはまた違う,Gが長くかかったままぐるぐる旋回する高速タイプのコース。コース終盤の8の字の1発目とNEOターンは間違いなくサイドを引きますが,それ以外のフルターン数箇所はサイドを引くかどうか悩みどころです。

路面はデミ助のデヴュー戦の頃に比べると改修されキレイになっていますが,フラットに見えて全体的に手前に向かって下がっており,この傾斜を頭に入れておかないと痛い目に遭うこともありそう。また,舗装の上にうっすらと砂やタイヤカスが乗っており,ライン上はキレイになっているものの,少しラインを外れるとダストが吹き溜まり状になっていて,これにはまるとトラクションがかからずクルマが全く前に進まなくなります。



※画像はJMRCのHPからいただきました。画像をクリックすると大きい画像を表示します。


こういうGがだらーっと長く続く高速タイプのパイロンコースでは,おとーさんの場合,リアのエア圧を上げるよりも思い切って下げた方が若干ながら速いことがこれまでの経験や水曜日の練習で確認できています。1本目はリアを1.8kまで下げ,ずるずるの状態で走ることにします。

ただこれをやるとターンの旋回速度は確実に落ちます。ターンができないことはないのですが,スパッとリアが出ず,ずるずるフロントで引きずって回る感じになります。コース終盤のターンが微妙ですがとりあえずこれで1本目を走ってみて,ターンでのロスが大きいようであればもう一度エアを張ることにします。


せっかく前日に大汗かいて4.0kまで張ってたリアのエアをしゅーしゅー抜いて1本目のスタートラインにつきます。さあこうなったらもう「走るの止めようかな」とかそんなことを考える余地はない。今期唯一かもしれないチャンスを確実にモノにするため1分20秒ちょっとを必死で闘え!


いつものスターターのお兄ちゃんがきびきびと指を折り,フラッグをぱあっと振ってくれます。

さあ,スタート!

まずは真っ直ぐ奥へ行って左へぐるっと回り,手前に戻って来てぐるーっと回り込んで右ターンを一発。

この時点で既に気がつきましたが,フロントのグリップが思っていたよりも低く,舵を切ってから旋回ヨーが生じるまでに若干のラグがある。旋回の途中からリアがずりずり動いてどうにかクルマの向きは変わりますが,クルマの姿勢が決まるまでに時間がかかって踏み切れない。

特にコース手前の方のラインからちょっと外れたところに前述のダスト溜りができており,ラインを外に振ってパイロンに入ろうとすると容赦なくフロントが逃げていく。

今来たコースをぐるーっと戻って行って一回り。今度はコース手前に逆から戻ってきて左ターン一発。ここは無難に決まりました。

しかしここからまた折り返して戻って行く部分でアウト側のダストを踏んでしまいクルマが前に進みません。ジリジリしながらクルマの向きが変わるのを待ち,やっとスロットルを床まで踏んだらもう次のパイロン。

サイドを引いてスラロームに入り,一番奥のタコツボもサイドを引いたら路面がうねってるのでボヨンボヨン。若干トラクションが逃げますが,気にせずフルスロットルでさあコースは終盤。

8の字の一発目は左ターン。ここはうまく決まりましたが次の右をグリップで回ったら思ったよりも大回りでタイムロス。最後のNEOターンもうまく決まらず,ずるずるーっとリアを引きずった状態で何とか回りきってゴール!


これまで姫路セントラルでフルパイロンのコースを走った時には2回とも,今回と同じような「何だかなー」という走りでもゴールしたら何故かダントツのトップだったのですが...微かな期待を持ってウインドーを開けアナウンスに耳を傾けますが,結果は無情。トップまで2秒差。

思わず天を仰ぎ大きなため息が出ます。

やっぱりダメか...


ここは間違いなく地区戦。ミドル戦の頃のように周囲のミスに期待はできません。ライバル達はみないつの間にかおとーさんに追いつき追い越して今は数秒先を走ってます。自分があちこちミスをしてるようじゃ絶対に勝てません。

得意なはずのフルパイロンでも,これまでと同じ厳しい現実を突きつけられます。



お昼になると雲間から陽光が差し,今さらながら周囲の緑の美しさにハッとさせられます。近くを流れる小川のせせらぎからはカジカでしょうか,コロコロ可愛い声も聞こえてきます。とても爽やかな山の初夏。

でもおとーさんの心は爽やかさとは無縁。泣きそうになりながらも,ここで負けてなるものかとロガーのデータを必死で解析します。多くのクルマが走るうち路面のダストも掃けてグリップが上がり,みな2本目で大幅にタイムアップしそうな予感。現時点で2秒差があるということは,少なくとも2秒以上タイムを上げなければ絶対に優勝はありません。3秒上げるぐらいのつもりで走らないといけないのか...そりゃ無理だろう...

やはりアンダーを出しているところではトラクションも逃げているようで明らかに車速の上昇勾配がぬるくなってます。リアの動きも思ったより鈍く,2本目に向けてラインそのものを考え直さないといけません。

そしてやはりターンの旋回速度が遅い。きっちり鼻を入れないと曲がらないためターンの初速が遅いのは仕方ないとしても,ターン中に加速するどころか減速しながら回ってるような感じ。これはやはりリアのエアを大きく落としたことが悪影響しています。


・・・・・・

よし,リアのエア圧をもう一度上げよう!(;・∀・)

お昼の慣熟でラインと路面の状態(特にダストの溜り具合)を確認した後,一大決心をします。

昨日必死で4.0kまで入れたエアを先ほど半分以下まで抜き,そして今また4.0kまで入れる...何やってんだか。しかもこういう時に限ってホームセンターで買った1500円のエアコンプレッサーが壊れてるという罠。

仕方なく自転車用のポンプでシャカリキになって空気を入れますが,途中で腰が痛くなるやら背中が痛くなるやら二の腕が痛くなるやら。そして滝のように流れる汗,汗,汗。見かねてデミオ無頼さんがエアコンプレッサーを貸してくれましたが(ありがとうございます!),リアタイヤが再びパンパンに張った時には,自分の全身の筋肉もパンパンに張っていて,既に疲労感いっぱいの状態で2本目に臨みます。


スタートラインにデミ助を並べます。どきどきどきどきイヤな動悸が全身にきな臭いアドレナリンを循環させます。額にはじっとりと冷汗がにじみ出ていて,心なしかグローブをはめた手が小刻みに震えてます。

勝ちたい。勝ちたい。勝たしてくれ。

今日ここで勝てなければ今シーズンは終了。

というか,ここで勝てなければもう永遠に勝てない気がする。

前回の表彰台で少しだけ取り戻した自信はどこへ行ってしまったのやら。デミ助のシートに座ってステアを握ってるオッサンは,まるで干からびた餓鬼のようにぶるぶる震えて小さく固まっていました。


それでもスタートの順番はめぐってきます。

逃げ出したくなるような強烈なプレッシャーの中,さあ,2本目のスタート!



エアをパンパンに張ったことでリアの動きは良くなり,ターンの旋回速度も上がりました。1本目でアンダーを出した部分もラインを変えることで無難に乗り切りました。

しかしコース中央で左ターンをしてぐるっと大回りして戻って行くところで,1本目よりもスピードが乗っていたためにラインを外して見事にダストの吹き溜まりに突っ込んでしまい,動画を見てもらえばお分かりの通りフェンス際まで届く特大の安打を放って大幅なタイムロス。

こうなってはもういくら最後のNEOターンが無難に決まっても挽回は不能...泣き出しそうな気分でゴール!


結果,1.3秒ほどのタイムアップに止まり,トップとの差は1秒に縮まったもののその中に4台が入り,最終順位は5位。

ああ,やっぱりダメか...

姫路で2度起こったミラクルに3度目はありませんでした。得意なはずのフルパイロンでおとーさんは再び沈没しました。優勝どころか表彰台にすら届きませんでした。シリーズポイント争いからもこれで完全脱落です。


・・・・・・

挫けました。今回は,本当に挫けました。

体力的にも,気力的にも,時間的にも,金銭的にも,今の自分にはもうこれ以上は無理です。50歳前の仕事が忙しい家庭持ちのオッサンとしては精一杯走ってるつもりです。それでも全然勝てない。得意なはずのコースでも勝てない。

勝てない。勝てない。

自分がもう「勝てる」ドライバーではないという現実をイヤというほど思い知らされました。「勝つこと」を求めて走るのにはほとほと疲れました。自分が走る理由が見えなくなりました。


やっぱりもう,走るの止めよう。

週末は家族や仕事のために使おう。

こんなことやってる場合じゃないだろ。

ここへ来るまでに感じ続けていた葛藤に,2本目を走り終わって車検場にも呼ばれずそのままパドックに帰って行く時には結論が出ていました。自分の中で何かが確実に「終わった」,そういう気がしました。

あとは,いつ止めるか。もう今回を最後にするのか。今シーズンの最後までは走るのか。スカラーシップもらってる以上は最後まで走らないとダメだよな。シーズンが終わったら競技用のグッズの処理はどうしよう。デミ助にはもうしばらく乗っていたいんだけどな...G6だけたまに出ようかな...


でもね。

帰りの名神でもう一度考えてみたんですよ。

別に,勝たなくってもいいんじゃないか,って。

勝たなくってもいいのなら,走り続けられるんじゃないか,って。

いや,負け惜しみで言ってるんではなく(笑)。


ジムカーナは競技でありモータースポーツですからそこには必ず勝ち負けがあり,最初から勝つことを放棄してかかるなんてのはスポーツマンシップにも反します。勝ちたい,勝とう,そういう気持ちがないとなかなか速くならないのも自分自身で経験済み。

ただ最近のおとーさんは勝つことだけに意義を感じていて,それ以外の部分を全く無視している。負けず嫌いもいいけど,そこまで行くとちょっと行き過ぎ。

勝つことは大事。でも勝つこと以外にも走る意味はあるはず。だからこそ8年もの間,走り続けてきたのでは。ブランクがあっても,また戻ってきたのでは。全然勝てなくっても,下から数えた方が早い順位でも,結局また気がついたら走ってたんじゃないのか。


思い出すのは去年の今頃。嫁さんからなかなか活動再開にOKが出なくって悶々としてた頃。あの頃はもう一度走りたくって毎晩ジムカーナの夢を見てた。勝ち負けよりも,純粋にもう一度走りたかった。あの気持ちはどこへ行ったのか。

不惑インテをクラッシュで失った後も,勝ち負けなんてどうでも良かった。とにかくもう一度走りたかった。息子の受験で走れなかった時も,ただただもう一度走りたかった。

今はとりあえず月1回は走れるじゃないか。勝てないけど,とりあえずは走れるじゃないか。


そうだ。

勝つことだけを求めて走るのは,もう終わりにしよう。


勝つこと以外の何か。

カッコ良さ,かもしれない。

充実感,かもしれない。

美しさ,かもしれない。

完璧,かもしれない。


今の自分には分からないけど,峠を走り始めた時やジムカーナを始めた時には確かに感じていた「何か」を取り戻すために。


走ろう。

もう一度,走り始めよう。



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