PN1クラス詳解
全日本ジムカーナで大ブレイク中のPN1クラス。次にこのPN1クラスを走るお買物車の車両規定について詳しく見て行きましょう。PN1クラス設立の経緯については2つ前のページ「S1500とPN1クラス」を参照して下さい。
PNクラスは従来のNクラスとは全く別に新設されたクラスで,そこを走るクルマの改造規定(PN車両規定)はNクラスよりもずっと改造範囲が狭められています。S1500(スーパー1500)車両規定も,改造範囲を狭めているという点では方向性は同じですが,あくまでN車両を基にいくつか制限を加えただけのものですので,PN車両と比べるとまだ制限が緩やかです。
PNクラスは排気量と駆動方式によって下記のPN1,PN2,PN3の3クラスに分かれています。
- 排気量1600cc以下のFFまたはFR車両
- 排気量1600ccを超えるFFまたはFR車両
- それ以外の車両(つまり排気量に関係なく4WD車,MR車)
※2012年日本ジムカーナ選手権規定およびその一部改訂より
この最初の「排気量1600cc以下のFFまたはFR車両」という「PN1クラス」が,お買物車の出走するクラスということになります。現在は該当車がありませんが,FR車もOKなので,今後もし排気量1600cc以下のFR車両が新発売されたら同じPN1クラスで走ることになります。
昔のFR車両だったら1600cc以下のものもあるよ,それは一緒に走れないの?という声もあるかもしれませんが,ここで出てくるのが「年式制限」です。PN車両規程には「JAF(FIA)公認またはJAF登録が2006年1月1日以降の車両でないといけない」という制限があるんです。昔の車両はたいていこの項目にひっかかってアウトになります。
JAF公認・登録は前ページのS1500車両規程でも出てきましたが,メーカーがJAFに対して公式競技に使う可能性のあるクルマを申請しているものです。たいていのお買物車は新発売やモデルチェンジの際にこの登録を受けていますが,あくまでメーカーの申請に基づくものですので,意外な車種が登録されていなかったり(例:初代ヴィッツRS),発売からずい分時間が経って登録されたり(例:HONDAビート)することもあります。
自分の愛車のJAF登録の有無,登録時期についてはこちらから確認してみて下さい(→JAFモータースポーツ 公認車両&登録車両一覧)。
また,代表的なお買物車のJAF登録の有無や基本データをこの後の「お勧め&主力車種」でまとめておきます。
さあ後はS1500車両規程と同様,具体的な改造項目について,改造の可否や気をつけるべき点を書いていきますね。S1500車両規程との違いについても挙げていきますので,S1500からPN1にクラス変更される方は参照して下さい。
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足回り
PN車両規定は足回りに関してはほぼN車両規定と同じです。具体的に書きますと...
車高調の使用はOKです。スプリングは直巻,純正形状,ヘルパーいずれもOKですが,切断や溶接などの加工はダメです。また車高を下げ過ぎて「バネが遊んでいる」状態はNGです(手でスプリングが回る程度であれば可)。カーボン素材の車高調なんて誰も使わないと思いますが不可です。また最近よくある「車内から遠隔操作でショックの減衰を調整する」機構を後付けすることはダメです。
車高調で気を付けなければいけないのはピロアッパーがダメだということです。つまりサスペンションのアッパーマウントは基本的に純正でないとだめなんです。「ジムカーナ用」として販売されている車高調はたいてい純正アッパーを選択できるようになっていますので大丈夫ですが,通常の車高調キットですと問答無用でピロアッパーが付いてきます。購入する時には純正アッパーマウントを使用できるかどうかの確認が必要です。
げ,ウチの車高調はピロアッパー仕様だよ...という方。車高調は高価ですし,ジムカーナやるためにわざわざ買い換えるということもできませんよね。ただそのような方も諦めることはありません。最近の初心者向けのクラスは「B車両」という車両規程になっていることが多く,あなたの地域の初心者向けクラスがB車両規程であるならばピロアッパー仕様の車高調のままでもOKです。
→B車両規程については:「B車両について」
→全国各地区のお買物車クラスについて:「全国お買物車クラス」
ブレーキのパッド,シューの交換はOKです。ただディスクローターの交換は純正同等のものでないといけません。スリットが入っていたり穴あきのローターに後から交換することはできません(最初からそういうローターのクルマはOK)。ブレーキホースやキャリパー交換もダメですが,S1500車両ではOKだったマスターシリンダーストッパーも装着できませんので注意が必要です。またN車両やS1500車両では交換がOKだったスタビも,PN車両では一切変更NGですので気をつけて下さい。
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エンジン関係
S1500車両でもそうでしたが,基本的にエンジン関係は厳しく改造が制限されており,交換できるのはプラグぐらいです(プラグコードが存在するクルマは交換OK)。コンピューターやROM交換,ROM書き換え,サブコンなどはダメです。ビッグスロットルなどもNGです。もちろんエンジン内部に手を入れる改造もNGです。
吸排気系も改造は厳しく制限されています。純正交換式のエアクリーナーはOK(乾式⇔湿式の変更もOK)ですがキノコ型に換えたり,クリーナーボックスを加工したり取っぱらったりしてはいけません。そしてやはりマフラー交換はNGです。車検対応マフラーでもダメです。純正マフラーじゃないとダメなんです。もちろんエキマニも触媒も一切手をつけてはいけません。マフラーの先っちょにマフラーカッターをつけるぐらいは許されます。
ただ,足回りの部分でも書きましたが,最近の初心者向けのクラスは「B車両」という車両規程になっていることが多く,あなたの地域の初心者向けクラスがB車両規程であるならば「(陸運局の)車検に通る」ことを条件にある程度の吸排気系のチューンは許可されています。
→B車両規程について:「B車両について」
→全国各地区のお買物車クラスについて:「全国お買物車クラス」
またS1500では少し手を加えることが来た冷却系に関しても,ラジエターキャップの交換,サーモスタットの交換,ラジエーターファンのコントロールなど一切できません。もちろんラジエーターそのものの交換やオイルクーラーの設置もダメです。
バッテリーを軽量品に交換することはOKです。ただバッテリーの搭載場所を変えることは禁じられています(トランク内移設など)。また一時流行ったアースチューニングもNGです。
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駆動系
駆動系についてもS1500車両とほぼ同じ改造制限があります。
LSD(デフ,リミスリ,ノンスリ)は交換OKです。ただ元のデフケースを利用してボルトオンで装着できるもの,ということになってます。ギアはファイナルを含め一切交換不可です。
クラッチディスクやカバーは交換OKですが(メタルも含め),カーボン100%のものは使用不可となってます。またフライホイールも交換不可です。
室内のシフトノブは変更してOKです。ただしシフトパターンがシフトノブ付近に明示されていないと車検が通りませんので,ビニールテープにマジックで手書きして貼っとくだけでもいいですから,何か対処しておく必要があります。
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車体関係
車体関係の改造で気をつけておかないといけないことは,S1500車両では交換OKだったエンジンマウント,ブッシュ類がPN車両では一切交換不可であることです。ピロやジュラコン製はもちろん強化ゴム製もダメですので気をつけて下さい。
また,車体の補強パーツはロールバー(ロールケージ)以外は一切ダメです。つまりS1500車両ではOKだった前後のストラットタワーバーすらも禁じられています(最初から純正で装着されている車両はOK)。
軽量化についてはS1500車両と同じく「ガソリン満タンの状態で車重がカタログ値を下回らないこと」という規定になっています。これにはスペアタイヤや車載工具などは含まれていません。ただ,実際に競技走行する際にはガソリンはかなり減らして走りますので,競技で走行している車両の実車重はたいていカタログ値を下回っています。
※例えばDE5FSデミオの場合,SPORTと15Cは同じ型式なので軽い方の15Cの車両重量980kgが「カタログ値」ということになります。
ガソリンタンクの容量が41リットル,ガソリンの比重を0.78として計算すると,ガソリン満タン時のガソリンの重さが32kgですから980-32=948kg,どんなにガソリンが減ってもこの948kgを下回ってはいけない(基準重量)と考えます。
軽量バッテリーを使ったり,軽量ホイールを使ったりすることで軽量化する分には良いのですが,カーボンボンネットやアクリルガラスなどを使って軽量化するのはダメです。っつーか,そこまで軽量化したら満タンでカタログ値を大幅に下回ってしまいます。純正でも結構カタログ値を下回ってるケースがあります。そのような場合はむしろスペアタイヤを積んだまま走るなどの重量調整が必要です。
車高調を組んで車高が変わったりする場合はOKですが,それ以外に車検証記載の車体の諸元値を変えてはだめです。つまりオーバーフェンダーで車幅が拡がるとか,リアスポで車長や車高が変わるようなものはNGです。またいくら車高を下げていいと言っても,最低地上高が絶対に9cmを切らないようにしないといけません(ちゃんとチェックされます)。
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室内関係
S1500車両ではエアコンの取り外しが明確に禁止されていましたが,PN車両ではファンやヒーターさえ維持してあればエアコンの取り外しは自由です。ただ車両重量的にもそこまでの軽量化をする必要はありませんし,初心者でそこまでやろうという人もいないですよね。
それ以外の項目はS1500車両と同じ改造制限となります。
ステアリングは直径35cm以上のものであれば交換OKですが,どこかにホーンマークがないとダメです。また簡単にステアを取り外しのできる機構(クイックリリース)は禁止されています。ステア交換でエアバッグを外してしまったら自動車保険の契約が変更になる場合がありますので気をつけて下さい。
シフトノブは上述のように変更可ですがシフトパターンを近くに明示しておく必要があります。シフトレバー以下のシフト機構そのものには手をつけてはいけません(クイックシフトなど)。またサイドブレーキレバーは一切変更NGです。サイドターンノブもダメです。
ペダルカバーやヒールプレートなどは取り付けがきちんとしてればOK。水温計や油温・油圧計などのメーター類も後付けOKですが取り付けをしっかりしておくのが条件です(両面テープではなくネジ留めなど)。時計や温度計,カーステのスピーカー類などもOKですが同じく取り付けをしっかりしておくことが必要です。
運転席シートはフルバケに変更OKです。ただし車検証の乗車定員を2名乗車などに変更してない限りはバケットの背面にシートバックプロテクターが必要です。これはきちんとした製品でなくてもホームセンターで切り売りしてるカーペットを両面テープで貼り付けるなどしてもOKです(不惑おとーさんもこれで対応してます)。
4ドア,5ドア車では助手席側のシートもバケット化してOKですが,やはりシートバックプロテクターが必要です。また軽量化のし過ぎにも注意が必要です。2ドア,3ドア車では乗車定員を2名にするなどリアシートを取っぱらってしまわない限り助手席シートはリクライニング機能を維持していないといけません。
ロールバー(ロールケージ)は4点式以上のものを使用するように推奨はされていますが,全日本レベル以外はほとんど誰もつけていません。またロールバーを組んで乗車定員を2名乗車にしたりしていない限りはリアシートを勝手に外してはいけません。
天井を取ってしまったりドアの内張りを外してしまったりする軽量化はダメです。せいぜいネジ穴の蓋を外すぐらいにしておいて下さい。
シートベルトは純正の3点式でも良いのですが,安全性やドラポジ保持のためにも4点式ベルトをつけることを強くお勧めします。ただ4点式をつけても純正の3点式はキープしていないといけません。
4点式ベルトの取り付けには注意が必要です。腰ベルトの左側を取り付ける時,シートの取り付けボルトをアイボルトに差し替えてここにベルトを止めている人がいますがこれはダメです。ちゃんとフロアに別のボルト穴を開けて当て板をしてアイボルトを取り付けないといけません。ムリにDIYで取り付けせず,ショップに任せましょう。
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タイヤ
PNクラスにおけるタイヤ制限はちょっとややこしいことになっています。
S1500クラスでは車両規程の中で具体的なタイヤの銘柄をあげてSタイヤの使用を禁じていますが,PN車両規程そのものの中にはタイヤサイズに関する記載こそあるものの,Sタイヤを禁じる記載は一切ありません。
PNクラスでSタイヤを制限しているのは「全日本ジムカーナ選手権統一規則」という別の規則で,この中には「タイヤ接地面にタイヤを1周する連続した縦溝を有するタイヤを使用しなければいけない」という記載があり,これがPNクラスで事実上Sタイヤを禁じる根拠となっています。実際,国内で現在発売されているSタイヤには縦溝がないんですね。
ところがこの「全日本ジムカ〜〜統一規則」というのは全日本シリーズだけに効力を持つもので各地区の大会には制限が及びません。そのため各地区ではそれぞれの地区でもってSタイヤを制限するようにしています。
- 具体的にSタイヤの銘柄を挙げて禁止→中部,近畿,中国,九州
- 全日本ジムカ〜〜統一規則(縦溝規則)に基いて禁止→北海道,東北,関東
- PNクラスなし→四国
典型的なSタイヤ(RE11Sとか03Gとか)はいずれにしても使えないのですが,ここで問題になってくるのがTOYOの「PROXES R1R」というタイヤです。
TOYOには他に「PROXES 888」という立派なSタイヤがありR1Rはあくまでスポーツラジアルの扱いなのですが,メーカーサイトで確認してもらえば分かる通りタイヤを1周する縦溝を持っていないため,「縦溝規則」を採用する北海道,東北,関東(と全日本)のPNクラスでは使用できません。個人的には好きなタイヤなんですがね...
一方で海外製のSタイヤには縦溝を持つものもあり,この「縦溝規則」で完全にSタイヤを規制できるかは疑問視されています。幸い全日本では「あまり怪しげなタイヤは使わない」という紳士協定が成立しているようですが,今後はどうなるか分かりませんし,地方もこれに倣うという保障はありません。この辺り,今後の動きに注目して行きたいと思います。
タイヤのサイズは「タイヤ幅10mmアップ,ホイール径1インチアップまでOK」というN車両やS1500車両規則と同じ制限になっており,これは地区によって違いはありません。ただしフェンダーからはみ出したりしないというのが前提ですよ。
ホイールも全国どこでも1インチアップまではOKです。幅やオフセットの制限はありませんが,フェンダーからはみ出したり,キャリパーに干渉したりしてはいけません。
タイヤのサイズダウンやホイールのインチダウンは自由にOKということになっていますが,実際にはロードインデックス(最大負荷能力)が純正と同等,静的負荷半径が純正の基準範囲内でないといけないという規則もあるため,大きなサイズダウンはできません。
ホイールキャップのついてるモノは走行時には外しておかなければなりません。またスペーサーやPCDチェンジャーなどのアダプター類の使用は厳禁です。
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その他
PNクラスにはS1500クラスと違って「価格制限」はありません。上記の車両規定さえ満たしていればお買物車が何台も買えるような値段の外国製スポーツ車もPN1クラスに出られます。もちろんそんな高性能車が何台も出場してくれば,安価な国産お買物車はあっという間に駆逐されてしまいますよね。
JAFも,せっかく「お買物車クラス」として賑わっているPN1クラスに,このままではそのうち高級外国製スポーツ車が入ってきて国産お買物車を食い散らしてしまうと考えたのでしょう。2012年シーズンに入る前にPNクラスのクラス区分を変更し,ミッドシップ車をPN1,PN2クラスから除外して4駆と同じPN3クラスに区分しました。確かにそういう高級スポーツ車はだいたいミッドシップですからね。
いくら高性能とはいえミッドシップ車と4駆をいっしょくたにするのはずいぶん乱暴な措置だと思いますが,そこまでしてでもJAFは「PN1クラス=お買物車クラス」という図式を維持しようとしていると考えられます。やっとJAFもお買物車で走るジムカーナの重要性を認めてくれたわけですね。
最後にこれまで出てきたB車両,N車両,S1500車両,PN車両の関係付けを整理するために下のような図にしてみました。B車両が最も改造範囲が広い,大きな枠組みになり,その中にN車両という比較的制限の厳しいクラスがあり,その中でさらにいくつか制限を設けて「お買物車クラス」にしたのがS1500車両です。PN車両は,N車両とは別にさらに制限の厳しいクラスとして設けられたものです。
今回のまとめ
- PN1クラスの車両規定は,従来のNクラスともS1500クラスとも別にJAFが新しく定めた車両規定。
- JAF登録時期による年式制限には要注意。ただしS1500のような価格制限はなし。
- 足回りは車高調とブレーキパッド/シューのみ交換可能。本当に必要最低限。
- エンジン関係はS1500クラス同様プラグ関係と純正形状のエアクリぐらいしか交換できない。マフラーなど排気系チューンは一切ダメ。
- 駆動系では,LSDとクラッチのみ交換OK。
- ストラットタワーバーなどの補強パーツは一切NG。マウント類やブッシュも交換不可。
- 車内はNクラスと同じ。フルバケやステアリング交換はOK。
- もちろんSタイヤは使用禁止。ただ地区により縦溝制限かSタイヤ銘柄指定制限かで禁止タイヤに若干違いあり。
- タイヤ,ホイールのサイズは1サイズアップまでOK。
Updated on Jan 25, 2012.