お買物車でジムカーナ!
さあここまで述べてきたお買物車で普通のスポーツラジアルタイヤを使って走るジムカーナの魅力について総括してみましょう。
S1500(スーパー1500)クラスやPN1クラスといったお買物車+普通のスポーツラジアルタイヤのクラスがここまで人気になったのは,
- クルマ本体が安い
- クルマが小さいため自動車税,保険料など諸経費,維持費が安い
- 改造範囲が狭くクルマが小さいためパーツ代や工賃も割安
- タイヤやホイールもサイズが小さいため安い
- しかもSタイヤじゃないからタイヤが減らない!1シーズン1-2セットでOK!
- さらに,クルマが壊れない
...など前ページでも述べたようにコスト面で大きなメリットがあることだけでなく,
- 車種による極端な有利不利がなくほぼイーブンで戦える
- 改造範囲が狭いため普通に通勤,街乗り,お買物車として使える
- 改造範囲が狭くクルマの構造がシンプルなためDIYも可能。自分で競技車をコツコツ仕上げる楽しさを味わえる
- クルマの運動性能とタイヤのグリップのバランスがちょうど良い!
- お買物車と侮るなかれ,乗っていてこんなに楽しいクルマはない
...などの理由があると思います。
例えばS1500クラスやPN1クラスの主力車種であるデミオ,フィット,ヴィッツ,コルトなどのカタログスペックを見てみると,エンジン出力と車重が相殺しあってだいたい似たり寄ったりの数字になっていることが分かると思います。実際に走らせてみてもこれらの車種は,コースにより若干の得意不得意はあるにしても,非常に良い勝負を繰り広げています。
つまりある程度自分の好きなクルマを選んで走ることが可能なんですね。以前の一部のクラスのように,特定の旧型車でないと勝負にならない,なんてことは(今のところ)ないんです。
またS1500クラスにしてもPN1クラスにしても改造範囲がかなり制限されており,爆音を出す吸排気系はもとより,軽量化のためにエアコンを外したり,マウント類をピロ化したりするようなことも禁じられているため,まずまず普通に通勤やお買物に使うことができます。つまり普通に家庭のセカンドカーとして使うことが可能です。構造がシンプルなためDIYでコツコツ競技車を作り上げていく楽しみもあります。
そして何より大事なことは「走っていて楽しい」ということです。
1500ccのお買物車の足回りを固めてスポーツラジアルを履いた状態というのが,実は絶妙なバランスなんです。タイヤが負けるということもパワーが負けるということもなく,クルマの動力性能とタイヤのグリップがちょうどつりあっていて,お互いの一番美味しいところを引き立て合うようなカンジになってるんです。
そのため,クルマに乗って走るということが,自らステアを握りスロットルを踏み込んでクルマを「走らせる」という行為であること,つまりクルマが勝手に走っているのではなく,あくまでドライバーが操っているのだというモータリゼーションの原点を思い起こさせるような感動がそこにあります。
もっと簡単に言うと,単純に乗って,走って,楽しい! タイヤのグリップの限界付近を行ったり来たり,クリップにきっちり寄せることも,リアを振り回すことも自由自在。クルマの基本設計がシンプルで大がかりな電子デバイスも付いてませんから,セッティングによりクルマの動きをいろいろコントロールすることも容易です。
2009年JAF CUP S1500クラスのパドック風景。デミオ,ヴィッツ,フィット,コルトなどなど。
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逆にお買物車+普通のスポーツラジアルタイヤで走ることに何かデメリットがあるとすると,
- クルマが小さく車速も高くはないため外から見ていて迫力がない
- 今後,性能的に飛びぬけたクルマやタイヤが出てくるとワンメーク化する可能性はある
...こんなところでしょうか。
デミオやフィット,ヴィッツといったお買物車は1500ccのスポーツグレードでもパワーはせいぜい120ps台。車重も重くてせいぜい1100kgぐらい。ぴゅーっと加速してヒラリヒラリとコーナリングしてきゅーっと停まる,そんなイメージです。4輪で激しく路面を掻きむしりながらぐわーっと加速してぎゃぎゃぎゃ〜っとコーナリングしてまた4輪を軋ませながらぎゃーっと停まる,そんな迫力満点の走りは出来ません。
でも全日本の大会でトップクラスのドライバーが操るデミオやフィットが,片輪を浮かせながら縁石を大胆にカットしてきて,パイロンに車体をこすりつけんばかりの距離でくるくるっと回ってすーっと走り去って行くと,観客席からは自然に「うおおおー!」と感嘆の声が上がります。
モータースポーツで求められているのは迫力ではなく「速さ」です。そしてこのクラスのクルマが速さをギリギリまで追求していくと,結果的に無駄な動きが削ぎ落とされていって迫力はなくなる代わりに「美しく」なるんですね。「技」はどんなものでも極めると美しくなります。美しさを目指して走っていくのも面白いと思いませんか?
現時点で各地区のS1500クラスや全日本のPN1クラスのウィナー車はデミオ,フィット,ヴィッツ,コルト,スイスポ,CR-Zなんかの群雄割拠の状態です。もちろん車種によりコースにより若干の得意不得意はありますが,極端な有利不利はなく,どのクルマに乗っていても勝てるチャンスがあります。一部のトップドライバーとは違って我々草ドライバーは自腹で買ったクルマを何年も使うことになります。一度クルマの選択を間違うと金輪際勝てないなんてイヤですよね。
今後いろいろなクルマが発売されるうち,どんぐり達の中から頭一つ抜けたスペックのクルマが出てくる可能性はあります。そうなると,ドライバーの腕の差が接近している全日本などではクルマの出来不出来が大きく勝負を分けるため「このクルマでないと勝てない」というワンメーク状態になるでしょう。これは速さを競うモータースポーツの宿命ですので避けられません。
ただ,もしそうなってもこのクラスでは車両の性能差はわずかです。現在の燃費基準や衝突基準を考慮すると1500cc程度の少排気量ではそれほど大きな性能差はつきにくいはずです。したがって頭一つ抜けているといってもコースや走行条件によっては逆転可能なレベルと考えられます。少なくとも地区戦やミドル戦のレベルでは腕の差で十分逆転可能な範囲内でしょう。あなたがいきなり全日本の頂点を目指すというのでなければ今の時点で車種の選択にそれほど悩む必要はありません。
...このようにお買物車+普通のスポーツラジアルという選択にはほとんどデメリットらしいデメリットもありません。
もちろん古いクルマにSタイヤを履いて走り続けることもカッコいい。
でも今からモータースポーツを始めるなら,わざわざコストのかかる方法よりもエコノミー&エコロジーな選択でスマートに行きましょう。
さあ,お買物車で,
普通のスポーツラジアルタイヤで,楽しくジムカーナを走ろう!
今回のまとめ
・お買物車+普通のスポーツラジアルで走ることはコスト面以外にもメリットがいっぱい。
・車種による極端な有利不利がなくほぼイーブンで戦える。
・改造範囲が狭いため普通に通勤,街乗り,お買物車として使える。
・改造範囲が狭くクルマの構造がシンプルなためDIYも可能。自分で競技車をコツコツ仕上げる楽しさを味わえる。
・クルマの運動性能とタイヤのグリップのバランスがちょうど良い!お買物車と侮るなかれ,乗っていてこんなに楽しいクルマはない。
Updated on Jan 14, 2012.