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ジムカーナは世界をめぐる (2) 〜世界のスラローム競技〜


ゴールデンウィーク真っ只中ですがみなさんいかがお過ごしですか?

それにしても今年のGWはキレイに前半後半に分かれちゃいましたね。間に2日だけ平日が挟まってます。明日,明後日だけお仕事,っていう人も多いんじゃないでしょうか。ええまあ,おとーさんもそのクチですが。

まあ,2日間だけ仕事すれば後はまたお休みですからがんばりましょう。あ,GW中もずっとお仕事という方,ご苦労様ですが何とか乗り切っちゃいましょう!


さて,もう初夏と言ってもいいような爽やかなお天気の下,いよいよモータースポーツも華盛り。この連休中も日本各地で練習会や競技会のイベントがたくさん開かれているようですな。

嫁様から「月に1回しか走りに行けない」という呪いをかけられている(笑)おとーさんとしては,4月も5月も地区戦で走るためにこのGW中のイベントは参加を諦めざるを得ませんでした。うう〜,走りに行きてえよぉ〜(泣)。

仕方なく「せめて動画だけでも」とお休み中ずっとYouTubeにかじりついてたらいろいろ面白い動画を発見しましたのでみなさまにお裾分けいたします。


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昨年のdiary「ジムカーナは世界をめぐる 〜ジムカーナの語源をめぐる旅〜」で紹介させてもらった通り,世界の様々な国でクルマのスラローム競技が行われています。

元々「ジムカーナ」の語源はこうでしたよね。

19世紀,大英帝国占領下のインドにて,ヒマな英国軍人家族の運動会的イベントを指す語として「gymkhana」が生まれました。"gym-"は「運動,体操」を意味する英語,"-khana"はヒンドゥスターニー語の"gend-khānā"「玉の家(スカッシュ場)」から来たもので,典型的なインド英語の造語です。

このイベントでよく行われていたポニーによる女性子供向けの簡単な障害物馬術トライアルも「ジムカーナ」と呼ばれるようになり,これがちょうどモータースポーツ黎明期の英国にて,レースやラリーとはまた違うタイムトライアル競技に結実しました。それが大西洋を渡って米国でも流行し,終戦後の日本にもたらされたと,そういうことでしたよね。


それではジムカーナ発祥の地,英国での現在のジムカーナ事情はどうなっているのか?

これね,あれからもいろいろ調べてみたんですが,探せど探せど出てくるのは2輪のジムカーナと馬術のジムカーナばかりで4輪のジムカーナの情報は全く出てこない。その代わり似たような競技として「autotest」または「autotesting」という語が出てきます。

この「オートテスト」の動画をYouTubeで見てみましょう。



これ,要するにジムカーナですよね,ね。

ただ,典型的なオートテストは,バックギアやパーキングボックス(一旦停止)を頻繁に使うもっとテクニカルなもので,そのチャンピオンの走りというとそれはもう完全に曲芸の域です。



どうですか? すごいでしょ。有名な動画だから見たことある人もいるかな。

このポール・スウィフト氏というのは知る人ぞ知る英国モータースポーツ界のヒーローの一人で,このオートテストだけでなくラリーやカースタントの世界でも著名な人...だそうです(実は知らんかった)。氏の公式サイトはこちら→PAUL SWIFT PRECISION DRIVING


このオートテスト,ルールもジムカーナに近いものがあります。

それぞれのコースは30秒から60秒ぐらいで走り切れるように設定されており,パイロンやポールにヒットしたり停止線を大きく越えてしまったり,きちんと停止できなかったりすると5秒から10秒のペナルティを課せられます(ミスコースは30秒)。また,それぞれのドライバーは12回から24回のトライアルを行いますので(ここが日本のジムカーナと違うところですね),1つの大会での参加台数制限は40〜50台となっているケースが多いようです(英国南西部のクラブの公式サイトより→Association of South Western Motor Club)。


このASWMCさんのサイトを見てますと,歴代チャンピオンの一覧も載っており,初代チャンピオンが1962年となってますから,この頃には既にこの種の競技は「ジムカーナ」とは呼ばれておらず「オートテスト」と呼ばれていたようです。

つまり現代の英国には,日本のパイロンジムカーナとほとんど同じ競技が存在するが,既に「ジムカーナ」とは呼ばれておらず「オートテスト」という名前になっている,また,日本のジムカーナと比べるとさらにテクニカルで,バックギアや一旦停止などを頻繁に使う傾向にある,ということですね。


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では,日本にジムカーナをもたらした米国のジムカーナ事情は如何?

米国にも日本のジムカーナに似たクルマの競技があります。ただこれも「ジムカーナ」とは呼ばれておらず,「autocross」または「solo」と呼ばれています。

ではこの「オートクロス(ソロ)」の動画を見てみましょう。



これも日本のジムカーナとよく似てますが,ちょっと雰囲気が違いますよね。

基本的に米国のオートクロスはだだっ広いパーキングとか飛行場にたくさんのパイロンを並べて「ロードコース」を作っていることが多いようです。コースは大小のコーナーとスラロームから構成されておりサイドブレーキを使ってパイロンの回りをぐるっと回るようなテクニカルなターンは見られません。




これはオーガナイザーの動きも含めた「オートクロスの1日」とでも言うべき非常に興味深い楽しい動画です。題名は「オートクロス解体新書」ってなところでしょうか。

夜明け前にキャンピングカーみたいなクルマに乗ってオーガーナイザーが到着。早速大量のパイロンをコースラインに沿って「撒いて」ます(笑)。その後,オフィシャルがパイロンを並べていくのですが,パイロンの扱いが乱暴なこと乱暴なこと。ぶん投げてますよ(笑)。やっぱり大陸は何やってもアバウトですなあ。

そして夜が明けるとエントラントがぼちぼちやってきて準備...やっぱり日本車多いですね。そして受付に車検。このへんは日本のジムカーナも一緒。

その後は慣熟歩行になるわけですが,「ノービス」つまり初心者の人は「ノービスウォーク」と言ってベテラン選手から安全やマナーについてレクチャーを受けながら歩くことが義務付けられてます。慣熟歩行が終わったら,正式なドライバーズミーティングがありますが,ここでも安全についての配慮が強調されてますね。

さあ,いよいよ走行開始!

キャンピングカーみたいなトレーラーの中はまさにコントロールタワーになっており,光電管測定のタイムはゴール後に読み上げられます。

走行動画ではスラロームの部分のコメントが面白いですね。「ぐるぐる回るのはお勧めできません」とか,「なんでみんな右から入るんだい...そうか分かった!」とか(笑)。


このオートクロスは「ソロ」という競技名で,「The Sports Car Club of America(SCCA)」という組織(ちょうど日本のJMRCのような組織でしょうか)が各地区のシリーズや全米選手権シリーズも統括して開催しています。1台ずつ走る競技,っていうことなんでしょうね。

ここにある競技の規定やらを読んでみますと,パイロンをヒットした場合のペナルティーについては基本的に「2秒」となってますね。しかもパイロンが,元あった場所からパイロン1個分,完全に移動してない限りはペナルティーにはならないようです。地区によってはパイロンの数がさらに多い代わりにペナルティーが「1秒」というところもあるようですね。英国や日本の同種の競技と比べるとかなり緩やかですな。

しかし日本でいうD車両のようなオープンホイールのクルマの走りはかなり物凄く,日本のジムカーナとはまた違う迫力があります。



これはワシントン大学のチーム(自動車部かな?)が走らせている車載動画ですが,コメントにあるように大学の勉強が忙しくブッツケ本番の走りながら,1本目のアンダー走りを2本目でしっかり修正して好タイムを出しています...しかし2本連続で走るんですね。タイヤがタレるでしょうに。コースが長くて慣熟も大変そうだ(汗)。


米国では今でも「ジムカーナ」という語は使われますが,有名なケン・ブロックの動画のようなよりエキジビション的,ショー的な走りを指すようで,上記のようなタイムトライアル競技とはあくまでも別物です。資料を見ますと,1960年代ぐらいまではオートクロス競技を「ジムカーナ」と呼んでいたようですが,その後モータースポーツの発展と共に分岐したようですね。


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さて,これら英国の「オートテスト」と米国の「オートクロス(ソロ)」を比べると,前者の方がずっと日本のジムカーナに近いように感じるんですがみなさんはどうですか? 日本でのジムカーナのルーツになったと言われる横田など米軍基地のジムカーナはどう見ても「オートクロス」ではなく「オートテスト」の方ですよね。

思うに,おそらく米国で1960年代ぐらいまで「ジムカーナ」と呼ばれていたのは,英国から入ってきたオートテストに近いもっとテクニカルな競技だったのではないでしょうか。これが後にオートクロスと呼び名を変えると同時にスタイルも若干シンプルかつオープンに変化したと。終戦は1945年ですから米国から日本に入ってきたのはオートクロスに進化する前のより英国版オートテストに近い「ジムカーナ」だったわけです。違うかな。


これを樹状図にするとこんな感じになります。こうやっと見ると日本のジムカーナがどのように英国のオリジナルジムカーナから分かれて来たかよく分かりますね。案外,日本のジムカーナが元祖ジムカーナに最も近い姿を留めてたりするかもしれませんね。



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因みに米国のオートクロスという語は,英語圏では通用しますが,欧州各国ではまた全く違った競技を指します。これはダートで数台のクルマがレースを行うもので,日本でも同様の競技が行われています。下はヨーロッパ選手権の動画。



欧州各国ではクルマのスラローム競技は「auto-slalom」あるいは単に「slalom」という単語がよく用いられるようです。

これはドイツのauto-slalomの動画。結構激しい走りを見せてくれます。



こちらはフランス。



これはカナダ。クルマはCR-Xのようですね。



これら「オートスラローム」はいずれも米国のオートクロスに似て大小のコーナーとスラロームでコースが構成されていて,英国や日本のようなサイドターンや,英国のようなバックギアを使った小技は出てきません。コースも比較的単純で周回コースになってます。

これら各国のスラローム競技の全てが英国のジムカーナを起源にしていると考えるのには無理があります。ドイツ,フランス,イタリアなど欧州の各国でモータースポーツはレースやラリーを中心にそれぞれ自然発生的に生じたと考えられます。したがって欧州各国のスラローム競技は,それぞれの国で比較的単純なスラロームコースを中心に発展したものと考えられます。

ポール・フレール翁の有名な書籍(「いつもクルマがいた」二玄社)でも,戦前のHRG社のクルマに触れた部分で「英国独特のトライアル競技」という記載があり,英国のスラローム競技は他の欧州の国とは一線を画していたと思われます。

つまり欧州各国のスラローム競技は,英国のジムカーナとは関係なく発展し,たまたま米国のオートクロスと似たような競技になったのではないかと推測されます。


これらから考えると,やはり日本のジムカーナは英国の元祖ジムカーナの直系であり,他の国のスラローム競技と比べてぐっとテクニカルであり,といって英国のオートテストよりは高速でダイナミックな面があり,技術と迫力のバランスのとれた,世界に誇るべきスラローム競技なのではないかと思います。

いつの日か,世界のスラローム競技者が一堂に会して「FIA世界スラローム選手権」がF1のように開かれるといいな...きっと日本のジムカーナドライバーは技術面でも速度面でも強く,世界のトップクラスになれるんじゃないかと思うんですけどね(笑)。



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