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おとーさんが愛したクルマ達 その5 −HONDA ライフ−


震災の影響で第1戦が中止となった全日本ジムカーナでしたが,第2戦は無事に開催され,1ヶ月遅れで2011年シーズンが開幕しました...っていうのももうちょっと旧聞になってしまいましたね。

今年からラジアルタイヤのクラスになったPNクラスは噂通りの盛況で,特にデミオやフィット,スイスポ,ヴィッツなんかが走るPN1クラスは出走22台というN2クラスに並ぶ大人気のクラスとなり,トップドライバー達によるハイレベルの戦いが繰り広げられました。

各地の地区戦もそれぞれ開幕しており,我が近畿地区でもいろいろ困難な状況の中,オーガナイザーさんの努力で地区戦第2戦,第3戦とも無事に開催され,台数的にも昨年に劣らない賑わいを見せました。

近畿地区戦では去年おとーさんが走っていたN1.5クラスに加え,全日本と同じPN1クラスも成立し,ラジアルタイヤを履いた1.5リッターのお買い物車がジムカーナでも当たり前に活躍するようになりました。

もちろんSタイヤを履いたバリバリの競技車も限界ギリギリの走りでギャラリーを魅了してくれます。しかしこれまで何となく「初心者クラス」「オマケ」的な扱いを受けていたラジアルタイヤのジムカーナは,日本のジムカーナの世界で確実に市民権を得ました。

やはり時代は確実に変わりつつありますね。浪人中のおとーさんにとって嬉しくもあり,でもそこに自分がいないことに寂しさも感じたりの日々です。


さて,先日の全日本第2戦で活躍するコンパクトカー達を見ていてつくづく思ったのは,小さくて非力なクルマでも観客を唸らせ,人を魅了するような走りはできるんだな,ということ。

以前からジムカーナ競技ではシティとかCR-Xとか,N1クラスのヴィッツとか小さいクルマが活躍してますよね。全日本のギャラリー席で見ていて,確かにSタイヤを履いたハイパワー4駆がストレートからイトウ工業コーナーにものすごい勢いで突っ込んでくるその迫力も「おおおー!」となりますが,N1の小さいヴィッツやPN1のデミオなんかが片輪を浮かせながら縁石を大胆にカットしてきて,パイロンに車体をこすりつけんばかりの距離でくるくるっと回ってすーっと走り去っていく姿も,「うおおおー!」と観客に感嘆の叫び声をあげさせてました。



2011全日本第2戦PN1クラス,ライムMクンの激走...うおお!めちゃめちゃパイロン近ぇぇ!



パワーや絶対的な速さだけではない「ワザ」「技術」「コントロール」。

もちろんジムカーナは「速さ」を競う競技であり,ドリフトのような採点競技ではありません。ぶっちゃけ,どんな走り方をしようと速けりゃいいんですよ。でも,速さをギリギリまで追求していくと結果的に「美しく」なるんですね...

この「美しさ」ってところに,小さくて非力なクルマで観客を唸らせ,人を魅了するような走りのツボがあるんですな。おとーさん自身もSW20(MR2)からインテグラ,そしてデミオと,だんだん小さくて非力なクルマで競技をやるようになってます。目指すのは,速さをギリギリまで追求した先にある「美しい走り」ですな。


・・・・・・

小さくて非力なクルマというと,おとーさんには忘れられないクルマがあります。

おとーさんの弟が大学生時代に乗り回してたHONDAの初代ライフです。

今からちょうど20年ほど前,弟はよく年末年始や夏休みなんかにこいつに乗って熊本から大阪まで帰ってきてましたから(しかもほとんど高速に乗らずに一般国道で---無茶しよりますな),ちょくちょく助手席にも乗りましたしステアも握らせてもらいました。



画像はHONDAの公式サイトからいただきました



4ドアで深みのあるグリーンのモデルだったので,おそらくこの「スーパーデラックス」というグレードだったと思われます。

クルマの車体サイズは

全長:2995mm
全幅:1295mm
全高:1340mm
車両重量:515kg

小っちゃぁ!(笑)

現行のライフが全長:3335,全幅:1475,全高:1610,あの小さいTOYOTAのiQですら全長:3000,全幅:1680,全高:1500ですから,初代ライフがいかに小さいかよく分かります。車幅なんて,運転席でパッと手を伸ばせば助手席のドアに手が届くぐらい。これに身長180cm前後の兄弟2人が並んで乗ってた日にゃあ,狭い狭い(笑)。


動力性能なんてね...さあ,笑う準備しといてね...


エンジン:水冷2気筒OHC
排気量:356cc
最高出力:30ps/8000rpm
最大トルク:2.9/6000rpm


...だいたい今の250ccの2輪と同じぐらい(笑)。

っていうか実際にライフの先代モデル「N360」なんかは,まんま2輪(CB450)用の空冷エンジンをちょっといじっただけのものでしたし,このライフのエンジンも水冷にはなっていますが大した違いはありません。ただこれでも当時は軽自動車として驚異の動力性能をうたわれていたとのこと。

足回りも,フロントはストラットでしたがリアはもちろん板バネのリジッド。タイヤはバイアスで5.20-10-4PRというモノ。見た目,ちょうどバイクのタイヤと同じようなカンジでした(笑)。当然ながらブレーキは前後ともドラムっすよ。

今から20年ほど前,世がまだバブルやジュリアナで浮かれていた当時でも,もう既に滅多に走っているのを見かけないほどのクラシックカーでした。

資料:
・HONDA 中古車カタログ ライフ(1974年終了モデル)
・Wikipedia ホンダ・ライフ



そのころおとーさんはもう初代インテに乗ってお山を走り回っておりました。ハイグリップタイヤに足回りを固めただけのライトチューンでしたが,高速コーナーをキンコン言わしながら横っ飛びに駆け抜けていく快感にはまっておりました。

最初に弟のこのクルマを運転した時は全くの興味本位で,まあ遊園地のオモチャのゴーカートに乗ってみるようなカンジでした。うわ,何,このちゃちなドア,うわ,何,このちゃちなステアリング,うわ,何,このミッション,うわ,チョークついてるし...みたいな。

エンジン音だってまんまバイクだし(笑),うわー,全然坂道登らねえー,何このタイヤ,全然グリップしねえー,っつーか何でこんなに舟みたいにロールするかなあ,うわー,このブレーキ死ねるー(笑)みたいな。

まあ,おとーさんの乗ってた初代インテだって今からすれば大したことはないわけですが,それでも峠仕様のチューン車からこのクルマに乗りかえると,小さくてパワーがないだけでなく,車体の動きはひどいものだし,操作系は遊びだらけでユルユルだし,「お前このクルマで熊本と大阪と往復するのは絶対止めとけ!」と弟に真顔で忠告しましたから(笑)。


ところがね,この超・小さくて,超・非力で,超・オンボロなクルマをしばらく転がしてるとね,そのうち無性に楽しくなってきてね。

いや,何で楽しいのか分からない,不思議な楽しさ。

ステアを握ってるだけで勝手に顔がニヤケてくる。
コーナーの進入でブレーキの効きが足らずアンダーになると「止まらねー!」と爆笑。
コーナーのクリップ付近でタイヤがぎゃーっと鳴くと「あぶねー!」とか言いながら爆笑。
エアコンないしヒーター効かないし「暑いー」とか「寒いー」とか言いながら爆笑。
坂道を全然登らなくって後にクルマの列ができてしまっても「すんませーん!」とか言いつつ爆笑(迷惑なヤツ)。

気がつくと弟と2人ゲラゲラ笑いながら走ってました。弟が「兄ちゃん,もうそろそろええやろ」と苦笑いで交代を促しても「いや,まだまだ!」と最後までステアを握ってました。


こんな小っちゃなオンボロ車が,ちゃんとドライバーの操作に応えて一生懸命走ってる。こんなの動くの?っていうぐらい小さいシンプルなエンジンだけど,非力ながらも必死でクルマを前に走らせてる。笑っちゃうぐらい狭い車内だけど,普段は大した会話も交わさないような男2人兄弟が大笑いしながら仲良く肩寄せあって座ってる。

不思議な楽しさ。

オート○○とか○○システムとかがいっぱいついた,速くて安全で快適で広くてラクチンなイマドキのクルマではなかなか味わえない楽しさ。

クルマという機械を「操作」する楽しさ。
狭くって不便な空間を誰かと「共有」する楽しさ。
周囲から注目されるぐらい古くて小さいクルマを「所有」し走らせる楽しさ。
こんなに古くて小さくてシンプルなクルマが,それでもちゃんと動くという意外性,可愛らしさ。
そしてこれら全てが好きなところに移動しながら道中ずっと楽しめるという嬉しさ。

...小さい車体の中に,今はもう分かりにくくなってしまった「クルマの楽しさ」がいっぱい詰まっていたんだなと思います。


・・・・・・

「ライフ Life」とは言うまでもなく「生活」の意。

因みにライフの先代車であった「N360」の「N」は,「のりもの」の頭文字とのこと。

昔のクルマは,ネーミングにもセンスを感じますね。

現代においても「クルマ」は生活に密着した,なくてはならないモノではありますが,「のりもの」というよりは「家電品」のような道具的な存在に成り下がってしまいました。クルマに乗るコト自体も楽しかったはずなのに,クルマは他のコトを楽しむため荷物や人間を載せるだけの道具的なモノになってしまいました。


モッタイナイ (´・ω・`)。

今でも「のりもの」として乗って楽しいクルマはあります。
「載せる」ためのクルマではなく自らが「乗る」ためのクルマです。

別に大きくってハイパワーで高価なスポーツカーでなくってもよろしい。イマドキの小さくって非力で安いお買い物車で十分。こんなクルマでも人を唸らせるような走りができるんです。

さあ,あなたも小さくって非力なクルマで,速く美しい走りを追求しませんか。
きっとそこには失われた「のりものに乗る」楽しさがあると思いますよ。


2009年JAFカップのS1500クラスパドックより





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