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2010年 > 5月5日
おとーさんの宝物(その2)〜全日本@名阪〜
さあ本番の朝。
ジムカーナとは全く関係のない夢を見てフガフガしてましたが(笑),朝4時15分のアラームでスッキリ目が覚めました。
嫁さんや子供やワンコを起こさないようにそーっとローカを歩き,ささっと素早く着替えて忍び足で階下に下り,玄関のドアをそっと開けて一歩外に出れば,さあ,おとーさんはもう自由(BGMはBeatlesの"She's Leaving Home"でね)。
途中のコンビニで朝メシと昼メシをたっぷり買い込んで,名阪に向かいます。
寒い,寒い,強烈に寒い。気温1℃だよ。凍結してるんじゃないか。
頭の中ではお宝動画の佐川選手の走りがリピートされています。
緊張...してないと言えばウソになるだろうけど,緊張よりはワクワクする気持ちがずっと勝ってる。さあやってやるぞ,鮮やかな逆Z字を決めてやるぞ,そういう気持ち。
ライバルに勝つというより,自分自身の中の何かに勝とう,「いい走りをしてやろう」「みんなをアッと言わせるような走りをしてやろう」そういうカンジ。そういう走りができれば結果は自然とついてくるだろうしね。
会場に着くと,まあ呆れた。
昨日パドックに置いて帰ったテントが霜で真っ白に。周囲の草木も凍てついて真っ白。
あのー,今はもう4月下旬なんですけど...
※テントが霜で真っ白...
周囲のS1500クラスの選手もみな続々と会場に到着。
「寒いねー」と言いつつ走行準備を進めます。
と言っても,昨日たいがいの準備はできてますし,おとーさんの場合,本番も練習も普段の通勤も同じタイヤを履きっ放し(相変わらずなめてんな)なので,荷物を下ろし,ゼッケンを貼り直して空気圧の微調整をするぐらい。オニギリ食べながらね。
このお手軽さがS1500の良い所でしょ。全日本でもタイヤは履きっぱ(笑)。
お財布に優しく,クルマに優しく,環境に優しく,そしてドライバーの腰にも優しいS1500(笑)。
・・・・・・
何せ170台の中で最初に走るクラスですから,慣熟歩行の前に車両をスタートライン前に並べておいて下さいとのことで,クルマをパドックからコースの方に持って行きます。
わざとステアを大きく切って,タイヤにちょっとでも日光が当るようにして停車(もちろんタイヤを暖めるためにね)。また車内の陽のあたる場所にレーシングシューズを置いて,ちょっとでも暖まるようにしておきます。本番前にいきなり冷えきったシューズ履いて走り出すと,足が冷えて途中でこむら返り起こすことがあるからね(なんせ45歳のキモいジジイですから)。
ところがクルマをコース前に並べてから,ガソリン切れの警告が点滅してることに気がついた。さすがにちょっとガソリン減らし過ぎですな。これまでこれぐらいのガソリン量で走っててガス欠の症状が出たことはないけど,本番には万全の体制で臨みたい。慣熟歩行はもう始まってますが,仕方なくパドックまで歩いてガソリンの携行缶を取りに行きます。
普段の地元の大会だと,本番走行前にこういうことがあるとすっかり慌ててしまってメロメロの精神状態になっちゃうことがありましたが,今日は不思議と落ち着いてます。なに,焦ることはない。もうコースは頭に完全に入ってる。どこでどういう風に走るべきか,もうよく分かってる。
ガソリンを5リットルほど補給して,自分はトイレに行って出すものをスッキリ出して(笑),それから慣熟歩行に出ます。もうすでに身体は温まってます。ゆっくり歩いてコースの風景を確認するだけ。もう走りに関して迷いは全くありません。今,自分にできることを精一杯やるだけ。
最後にもう一度,逆Zの部分だけを何度か歩いてみます。
これまでずっと自分の頭の中で走ってきたこの逆Zを,いよいよ現実に,しかも全日本の大舞台で走ることができる,みんなに披露することができる。
あらためて胸にジーンとくるものがあります。
ジムカーナをやってきて良かった。つくづく思います。
よし! 行くぞ!
自分の中で「機は熟した」という感覚があり,慣熟を少し早めに切り上げます。
デミ助に乗り込み,エンジンをかけ,出走の準備にかかります。
タイヤはほんのり暖かくなっており,シューズもいい具合に温もってます。
よし! よし!
何度も自分の中で「よし!」を連発しながら,テンションが徐々に高まってくるのを感じます。
数日前までの萎えた自分が全くウソのようです。
よし,行ける! 絶対負けねぇ!
このコースなら他の誰よりもよく知ってる。
何年も前から,今日この日のために,このコースを,逆Zを,走り続けてきたんだから!
誰よりも速くこのコースを駆け抜けてやる。絶対負けねぇ!
スタート前も不思議と落ち着いていました。
普段は緊張し過ぎないために,同じクラスの選手の走りをあえて見ないようにしてたり,ステレオのボリュームを上げてアナウンスも聞かないようにしてるんですが,今日は他の選手のターンの精度やギアの選択を観察する余裕がありました。
もちろん緊張はしてますし,心臓はドキドキしてますが,頭が澄んでるカンジというか。
いつものように腕を振ったり曲げたりウォーミングアップしながらスタートの瞬間を待ちます。
こういうプレッシャーのかかるスタートの時はいつも,むしろ逃げ出してしまいたいような気持ちを感じるモンですが,今日は違う。早く来い。スタート来い。早く走らせろ。ワクワクしてます。
そして1台前のコルトとのちゃんが駆け出して行き,次はいよいよおとーさんの番。
よーし! スタートキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!っていう感じでスタートラインにつきます。
心臓はバクバクいってますが,頭の中は不思議なぐらい落ち着いてます。
走るんだ。
おとーさんは。
全日本を。
あの憧れのコースを。
誰よりも速く。
スターターは昨日と同じお兄ちゃん。今日も張り切ってキビキビ動いてくれてます。
何だかお兄ちゃんにもニコニコ声をかけたいような不思議な気分。
ありがとう,いい仕事をしてくれてありがとう。
おとーさんも今からがんばっていい仕事してくるよ。見ててね(見れねえよ --笑--)。
もちろん今は実際にそんなことを言うような場面ではない(笑)。
お兄ちゃんがこちらを向いて,指を折って,3・・・2・・・1・・・GO!
「よーし,さあ行けよー!」これは実際に声を出して言ってます(笑)。
スタート直後のイトウ工業から半月島を回ってギャラリー前に来る部分は2速ホールド。
リアがいいカンジに動いてフロントをフォローしてくれてます。
そしてギャラリー前の小さい島は深めに入ってサイド一発。
左回りはちゃんとサイドが効きます。
そしてすぐに広場のパイロンを左270度。
ちょっと進入で深く入り過ぎてパイロンから離れたターンになりますが立ち上がりで失速しなかったのでOK! 結果オーライだよ,気にすな!
そして次に大きく左に島回り。
ここは昨日の公開練習にもあった部分。進入で無理をせず,全体を加速するカンジでクリア。次は短いストレートですが,なるべく車速を乗せて脱出。
昨日よりもコース幅をいっぱいに使います。
そして次はオニギリを左に折れ返す...フルブレーキングしながらギアを1速にぶち込んで...若干ロックしてますがペダルの踏み加減をコントロールしてステアを左へ。
この時,左手がワイパーのスイッチに触れてしまったようでワイパーが作動(笑)。
自分でも ( ´,_ゝ`)プッ と吹き出しそうになりましたが,後で車載で見ると落ち着いてすぐにスイッチ切ってます。この瞬間のことは後日また触れようと思います。
そして外周を2速全開で逆走,奥の直角コーナーからアウトぎりぎりへ立ち上がり,イトウ工業コーナーを曲がって,ギャラリー席の前に。さあ,いよいよ逆Zだ! これまで何度も何度も頭の中で思い浮かべてきた映像が,自分の目の前に実際に展開されてます。
...陽光の眩しいピーカンの名阪スポーツランドCコース。
オニギリから外周を逆走してきた赤いDC2インテグラが,凄まじい勢いで観客席前に突っ込んできてイトウ工業コーナーをクリア,すぐにある小さな島をするっと左にターン,そして広場に入ってすぐのパイロンを今度は右にくるっと巻いて,タイヤを軋ませながら最終コーナーに向けて猛ダッシュして行く...
観客席からのお宝映像と,コース上を走る自分の視界とがダブります。
なんとも形容のしがたい不思議な感覚。
自分は観てるのか,走ってるのか,どっちだ...?
しかしその一瞬後,意識は現実に戻ります。
とにかく右へGがいっぱい残った状態でフルブレーキングして1速へシフトダウン,そして軽くサイドを当てながら小さい島を左へ折り返し,すぐ目の前のパイロンをスタート直後とは逆の右に180度サイドターン,必死でステアをぐりぐり回して,しかも絶対に失速しないようにスロットルを開けながらサイドを当てて...
後から動画で観ると,逆Z最初の左はサイドの引きが浅くほとんどグリップで回ってるし,折り返しの右ターンもパイロンからだいぶ離れてのターン。やはり佐川選手の走りからは程遠い。
でも走ってる時の自分の感覚では「うーん,80点ぐらいかな...( ̄ー ̄)」。
まあ,いいや。今はとりあえず最後までしっかり走り切ろう。
旧・最終コーナーを1速に落として立ち上がり,ストレートをかっ飛びます。3速全開!
そしてフルブレーキングから右にステア,イトウ工業コーナーを今度は順走で抜けます。
縁石に派手に乗っかってアウトいっぱいまで軽い車体がすっ飛んでしまいますが,気にせずスロットルを床まで踏みつけクルマを前に進めます。
後は外周をひたすら踏んで行くだけ。昨日はこの得意な部分でもライムM君に負けてましたが,今日は負けんぞ。コース幅ギリギリを狙って速度を乗せて行きます。もちろんS字の2つ目なんかはノーブレーキで。縁石に乗り過ぎて,降りた時には車体がバウンドしてますが,そこは伝家の宝刀Sオーリンズがぐっと踏ん張ってくれます。
そして奥のヘアピンを折り返し,最後にパイロンを一つひっかけてゴーール!!
※いつもの車載動画です。叫んでます,ワイパー作動してます(笑)
中間タイム,ゴールタイムともにトップタイム更新!
ぜいぜい息が切れてますが,小さくガッツポーズをしてパドックに引き上げていきます。
よし,よし!
うーん,まだまだ詰めの甘いところはあるけど,自分のできることはやった。
良くやった,がんばったな,オッサン。
そしておとーさんの後のお2人にこのタイムは破られることなく,1本目はトップで終了。
上出来,上出来。
※これはギャラリー席から (撮影:180さん Special thanks!です)
・・・・・・
全日本で暫定1位になったこと自体はうれしかったけど,今はそんなことより,観客席へ急がねば。そう,N2クラスの佐川選手の走りをナマで観なければ。ナマ佐川を,ナマ逆Zを観なければ!(笑)
N1クラス,そしてN2クラス。そして佐川選手の走り。
クルマは以前と変わって白いDC2インテグラになってるけど,その走りは2005年と全く変わらない。凄腕ぞろいのN2クラスの中でもその走りは際立っている。思い切りキレが良く,それでいながら針の穴を通すような正確なコントロール。
外周を走ってきて,タイヤを鳴らしてギャラリー席の前に猛然と突込み,サッと左に折れ,すぐにまた右にサッとターンして,ものすごいトラクションで走り去る...観客席もみな「おお〜っ」とどよめきます。
おとーさん,全身鳥肌立てて泣いてました。ビデオを撮りながら泣いてました。
何だこれは,何だこの感動は。
クルマの走りっていうのは,ここまで人を感動させられるものなのか。
速さ...だけじゃない。ワザ?
速さを突き詰める中で自然に生じる美しさ?
レースのようにただただ速く走るっていうのでもなく,ドリフトのように最初から「見せる」ためのものでもない。そのものを狙ってるんじゃない,1000分の1秒を削り落として行く過程でにじみ出てくる自然な美しさ...?
ああ,自分はまだ全然だ。全然ダメだ。足元にも及ばない。
でもいつかはこんな風に走りたい。勝ち負けじゃなく,人を感動させるような,記録じゃなく記憶に残るような,そんな走りをしたい。
よーし! おとーさんも2本目はもっとキレの良い走りをするぞ。
ナマ佐川を目の当たりして大感動したおとーさん,さらにさらに気合が入ってきます。
・・・・・・
お昼の慣熟は短めに。それよりも,さっきの佐川選手の走りをイメージしながら,自分の走行のイメトレを繰り返します。
1本目は暫定トップですが,2本目は必ずみんなタイムを上げてくるはず。おとーさんも少なくとも1秒はタイムを上げないとあっさり逆転されます。
ただ,考え方としては「1秒縮める」というよりも,佐川選手の走りに「近づける」というカンジ。
どうやったらあんな風に走れるのか。
どうやったらあんなキレを作り出せるのか。
どうやったらあんな風に鮮やかにGを切り返せるのか。
考えて考えてイメトレを繰り返します。
そして徐々に気合が入ってきたところで2本目スタート。
さあ,泣いても笑ってもこれが最後。
今年の後半からおそらく1年ぐらいは競技活動休止を予定しているおとーさんにとっては,もうホントに最後のビッグイベントかもしれない。悔いのないように,現時点で自分の持ってる全ての力を出し切ろう。そして少しでも佐川選手の走りに近づこう。みんなを「おおーっ」と言わせるような走りをしよう。
※入魂の2本目 (撮影:やまもっちゃん,実況:みっちゃん,Special thanks!)
...とにかく攻めました。精一杯攻めました。これ以上の走りは無理です,っていうぐらい。
ストレートからイトウ工業への突込みではギャラリーが「おおーっ」っていうぐらい突っ込んでます。S字の2つ目も,もちろんノーブレーキです。
しかしさすがにタイヤがタレたのか,外周でタイヤ1本分アンダーが出て一瞬コースアウト,復帰する時にひっかかりタコってしまい大きなタイムロス。逆Zも2つ目の右でサイド不発気味。
結果的には1秒のタイムダウン...でも悔いはない。
やるだけのことはやった。自分にできる精一杯を尽くした。これ以上はもう無理。
※縁石を思いっきりショートカットして飛んでるところ(撮影:みっちゃん Special thanls!)
・・・・・・
とりあえずまだ1本目のおとーさんのタイムを誰も破ってないため,暫定1位の状態でパークフォルメ(車検場)に入ります。
コルトのとのちゃんが「お疲れ〜」と声をかけてくれます。
2人でしゃべりながら,おとーさんの後の2人の結果を待ちます。
以下,偶然スイッチを切り忘れた車載ビデオが記録していた感動の瞬間(首なし)です(笑)。
「1番...1番かよ,信じられん」そう言いながらフラついてますね,オッサン(笑)。
向こうからN2クラスのM田さんも全力疾走で走ってきて祝福してくれました。
とのちゃん,M田さん,ありがとうございました。
同じS1500クラスのみなさんからも握手してもらいました,ありがとうございました。
TOYOタイヤの方も,ウィナーキャップを持ってきて下さいました。ありがとうございました。
他にもいくつかの雑誌社の方からインタビューしていただきました。
...おとーさん,勝ってしまいました。全日本で。
昨日までは挑発的な笑みを浮かべていたジムカーナの女神様が(なぜかエリカ様のイメージ --笑--),今日は飛びっきりのチャーミングな笑顔をおとーさんに見せてくれてます。「オッサン,45歳でキモいけど,よくがんばったわね(笑)」そう言ってくれてます。女神様は本当にいるんだな,そう感じました。
...職場では中間管理職,普段は疲れきっててもうヘロヘロ。
...家に帰っても今一つ家族からはリスペクトされない冴えない中年オヤジ。
...才能なんてない。体力もない。知力も最近衰え気味(笑)。
...時間もないし,お金もない。
...練習会出られない,本番もスポットしか出られない,嫁さんの理解もない(笑)。
それでも,ただただクルマの運転やクルマいじりが好きでここまで来ました。
勝てるんです。
こんなオッサンでも,一生懸命やれば勝てるんです。
案外,ジムカーナの女神様は親父フェチなのかもしれません(笑)。
今回,自分が勝てたこと,ナマ佐川選手を観られたこと,それ以外にも嬉しいことがいろいろ。その一つが,同じデミオで走るけどJAFから全日本クラスとしてちゃんと認められてる「PN1クラス」に,この大会だけの特設クラスであるS1500が,全く見劣りしない戦いを見せられたこと。向こうはバリバリの全日本選手にSタイヤだよ。それが優勝タイムではたったの1秒差!
決してラジアルタイヤのジムカーナが,レベルが低い,初心者オンリーの,単なるお楽しみクラスではないこと,ラジアルタイヤのジムカーナでも,ほとんどSタイヤと変わらない,全日本レベルの走りができるということ,モータースポーツとして全く遜色ないことを,おとーさん自身が証明することができました。どうだ,ラジアルでもここまでできるんだ!
表彰式の優勝者インタビューでもこのことを強調しておきました(笑)。
今後ラジアルタイヤのジムカーナが正当な評価を受け市民権を得ていくために必要な役割を,この不惑おとーさんが少しでも果たせたとしたら,ジムカーナドライバーとしてこれ以上の喜びはありません。
Sタイヤを止めラジアルで走ることで,全国のたくさんのジムカーナドライバーが引退の瀬戸際から救われる,競技者人口の減少にストップをかけることができる,おとーさんはそう信じてますから。
※45歳のオッサンが熱唱!私は足が臭いのだ〜!(撮影:180さん Special thanls!)
このあたりでそろそろ,この長い長いレポートの筆を置こうと思います。
動画の編集をしたりしながら書いていたため予想外に時間がかかってしまいました。
アップを待っていて下さった方,最後まで読んでくださった方,ありがとうございます。
GWも今日でもう終わり。明日からまた仕事です。
またあのいら立ち,疲れ切った日々が帰ってきます。
それでもおとーさんは生きて行きます。そして,生きてる限り走り続けます。
「全日本出場」がこのProject不惑の最終目標だったのは確かです。以前はそこでProjectを終わりにしようかと思ってました。
しかし,まだまだ終わりませんよ ( ̄ー ̄)。
走ることと,書くこと。
この2つがおとーさんの人生を支えてくれてるんですから。
たくさんの友人,先輩,クラブ員,ショップの社長さん・代表さん...そして家族と共に。
みなさん,おとーさんに人生最高のプレゼントをありがとうございました。
この勝利はおとーさんの人生の新たな「宝物」です!
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おとーさんの宝物(その2)〜全日本@名阪〜
さあ本番の朝。
ジムカーナとは全く関係のない夢を見てフガフガしてましたが(笑),朝4時15分のアラームでスッキリ目が覚めました。
嫁さんや子供やワンコを起こさないようにそーっとローカを歩き,ささっと素早く着替えて忍び足で階下に下り,玄関のドアをそっと開けて一歩外に出れば,さあ,おとーさんはもう自由(BGMはBeatlesの"She's Leaving Home"でね)。
途中のコンビニで朝メシと昼メシをたっぷり買い込んで,名阪に向かいます。
寒い,寒い,強烈に寒い。気温1℃だよ。凍結してるんじゃないか。
頭の中ではお宝動画の佐川選手の走りがリピートされています。
緊張...してないと言えばウソになるだろうけど,緊張よりはワクワクする気持ちがずっと勝ってる。さあやってやるぞ,鮮やかな逆Z字を決めてやるぞ,そういう気持ち。
ライバルに勝つというより,自分自身の中の何かに勝とう,「いい走りをしてやろう」「みんなをアッと言わせるような走りをしてやろう」そういうカンジ。そういう走りができれば結果は自然とついてくるだろうしね。
会場に着くと,まあ呆れた。
昨日パドックに置いて帰ったテントが霜で真っ白に。周囲の草木も凍てついて真っ白。
あのー,今はもう4月下旬なんですけど...
※テントが霜で真っ白...
周囲のS1500クラスの選手もみな続々と会場に到着。
「寒いねー」と言いつつ走行準備を進めます。
と言っても,昨日たいがいの準備はできてますし,おとーさんの場合,本番も練習も普段の通勤も同じタイヤを履きっ放し(相変わらずなめてんな)なので,荷物を下ろし,ゼッケンを貼り直して空気圧の微調整をするぐらい。オニギリ食べながらね。
このお手軽さがS1500の良い所でしょ。全日本でもタイヤは履きっぱ(笑)。
お財布に優しく,クルマに優しく,環境に優しく,そしてドライバーの腰にも優しいS1500(笑)。
・・・・・・
何せ170台の中で最初に走るクラスですから,慣熟歩行の前に車両をスタートライン前に並べておいて下さいとのことで,クルマをパドックからコースの方に持って行きます。
わざとステアを大きく切って,タイヤにちょっとでも日光が当るようにして停車(もちろんタイヤを暖めるためにね)。また車内の陽のあたる場所にレーシングシューズを置いて,ちょっとでも暖まるようにしておきます。本番前にいきなり冷えきったシューズ履いて走り出すと,足が冷えて途中でこむら返り起こすことがあるからね(なんせ45歳のキモいジジイですから)。
ところがクルマをコース前に並べてから,ガソリン切れの警告が点滅してることに気がついた。さすがにちょっとガソリン減らし過ぎですな。これまでこれぐらいのガソリン量で走っててガス欠の症状が出たことはないけど,本番には万全の体制で臨みたい。慣熟歩行はもう始まってますが,仕方なくパドックまで歩いてガソリンの携行缶を取りに行きます。
普段の地元の大会だと,本番走行前にこういうことがあるとすっかり慌ててしまってメロメロの精神状態になっちゃうことがありましたが,今日は不思議と落ち着いてます。なに,焦ることはない。もうコースは頭に完全に入ってる。どこでどういう風に走るべきか,もうよく分かってる。
ガソリンを5リットルほど補給して,自分はトイレに行って出すものをスッキリ出して(笑),それから慣熟歩行に出ます。もうすでに身体は温まってます。ゆっくり歩いてコースの風景を確認するだけ。もう走りに関して迷いは全くありません。今,自分にできることを精一杯やるだけ。
最後にもう一度,逆Zの部分だけを何度か歩いてみます。
これまでずっと自分の頭の中で走ってきたこの逆Zを,いよいよ現実に,しかも全日本の大舞台で走ることができる,みんなに披露することができる。
あらためて胸にジーンとくるものがあります。
ジムカーナをやってきて良かった。つくづく思います。
よし! 行くぞ!
自分の中で「機は熟した」という感覚があり,慣熟を少し早めに切り上げます。
デミ助に乗り込み,エンジンをかけ,出走の準備にかかります。
タイヤはほんのり暖かくなっており,シューズもいい具合に温もってます。
よし! よし!
何度も自分の中で「よし!」を連発しながら,テンションが徐々に高まってくるのを感じます。
数日前までの萎えた自分が全くウソのようです。
よし,行ける! 絶対負けねぇ!
このコースなら他の誰よりもよく知ってる。
何年も前から,今日この日のために,このコースを,逆Zを,走り続けてきたんだから!
誰よりも速くこのコースを駆け抜けてやる。絶対負けねぇ!
スタート前も不思議と落ち着いていました。
普段は緊張し過ぎないために,同じクラスの選手の走りをあえて見ないようにしてたり,ステレオのボリュームを上げてアナウンスも聞かないようにしてるんですが,今日は他の選手のターンの精度やギアの選択を観察する余裕がありました。
もちろん緊張はしてますし,心臓はドキドキしてますが,頭が澄んでるカンジというか。
いつものように腕を振ったり曲げたりウォーミングアップしながらスタートの瞬間を待ちます。
こういうプレッシャーのかかるスタートの時はいつも,むしろ逃げ出してしまいたいような気持ちを感じるモンですが,今日は違う。早く来い。スタート来い。早く走らせろ。ワクワクしてます。
そして1台前のコルトとのちゃんが駆け出して行き,次はいよいよおとーさんの番。
よーし! スタートキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!っていう感じでスタートラインにつきます。
心臓はバクバクいってますが,頭の中は不思議なぐらい落ち着いてます。
走るんだ。
おとーさんは。
全日本を。
あの憧れのコースを。
誰よりも速く。
スターターは昨日と同じお兄ちゃん。今日も張り切ってキビキビ動いてくれてます。
何だかお兄ちゃんにもニコニコ声をかけたいような不思議な気分。
ありがとう,いい仕事をしてくれてありがとう。
おとーさんも今からがんばっていい仕事してくるよ。見ててね(見れねえよ --笑--)。
もちろん今は実際にそんなことを言うような場面ではない(笑)。
お兄ちゃんがこちらを向いて,指を折って,3・・・2・・・1・・・GO!
「よーし,さあ行けよー!」これは実際に声を出して言ってます(笑)。
スタート直後のイトウ工業から半月島を回ってギャラリー前に来る部分は2速ホールド。
リアがいいカンジに動いてフロントをフォローしてくれてます。
そしてギャラリー前の小さい島は深めに入ってサイド一発。
左回りはちゃんとサイドが効きます。
そしてすぐに広場のパイロンを左270度。
ちょっと進入で深く入り過ぎてパイロンから離れたターンになりますが立ち上がりで失速しなかったのでOK! 結果オーライだよ,気にすな!
そして次に大きく左に島回り。
ここは昨日の公開練習にもあった部分。進入で無理をせず,全体を加速するカンジでクリア。次は短いストレートですが,なるべく車速を乗せて脱出。
昨日よりもコース幅をいっぱいに使います。
そして次はオニギリを左に折れ返す...フルブレーキングしながらギアを1速にぶち込んで...若干ロックしてますがペダルの踏み加減をコントロールしてステアを左へ。
この時,左手がワイパーのスイッチに触れてしまったようでワイパーが作動(笑)。
自分でも ( ´,_ゝ`)プッ と吹き出しそうになりましたが,後で車載で見ると落ち着いてすぐにスイッチ切ってます。この瞬間のことは後日また触れようと思います。
そして外周を2速全開で逆走,奥の直角コーナーからアウトぎりぎりへ立ち上がり,イトウ工業コーナーを曲がって,ギャラリー席の前に。さあ,いよいよ逆Zだ! これまで何度も何度も頭の中で思い浮かべてきた映像が,自分の目の前に実際に展開されてます。
...陽光の眩しいピーカンの名阪スポーツランドCコース。
オニギリから外周を逆走してきた赤いDC2インテグラが,凄まじい勢いで観客席前に突っ込んできてイトウ工業コーナーをクリア,すぐにある小さな島をするっと左にターン,そして広場に入ってすぐのパイロンを今度は右にくるっと巻いて,タイヤを軋ませながら最終コーナーに向けて猛ダッシュして行く...
観客席からのお宝映像と,コース上を走る自分の視界とがダブります。
なんとも形容のしがたい不思議な感覚。
自分は観てるのか,走ってるのか,どっちだ...?
しかしその一瞬後,意識は現実に戻ります。
とにかく右へGがいっぱい残った状態でフルブレーキングして1速へシフトダウン,そして軽くサイドを当てながら小さい島を左へ折り返し,すぐ目の前のパイロンをスタート直後とは逆の右に180度サイドターン,必死でステアをぐりぐり回して,しかも絶対に失速しないようにスロットルを開けながらサイドを当てて...
後から動画で観ると,逆Z最初の左はサイドの引きが浅くほとんどグリップで回ってるし,折り返しの右ターンもパイロンからだいぶ離れてのターン。やはり佐川選手の走りからは程遠い。
でも走ってる時の自分の感覚では「うーん,80点ぐらいかな...( ̄ー ̄)」。
まあ,いいや。今はとりあえず最後までしっかり走り切ろう。
旧・最終コーナーを1速に落として立ち上がり,ストレートをかっ飛びます。3速全開!
そしてフルブレーキングから右にステア,イトウ工業コーナーを今度は順走で抜けます。
縁石に派手に乗っかってアウトいっぱいまで軽い車体がすっ飛んでしまいますが,気にせずスロットルを床まで踏みつけクルマを前に進めます。
後は外周をひたすら踏んで行くだけ。昨日はこの得意な部分でもライムM君に負けてましたが,今日は負けんぞ。コース幅ギリギリを狙って速度を乗せて行きます。もちろんS字の2つ目なんかはノーブレーキで。縁石に乗り過ぎて,降りた時には車体がバウンドしてますが,そこは伝家の宝刀Sオーリンズがぐっと踏ん張ってくれます。
そして奥のヘアピンを折り返し,最後にパイロンを一つひっかけてゴーール!!
※いつもの車載動画です。叫んでます,ワイパー作動してます(笑)
中間タイム,ゴールタイムともにトップタイム更新!
ぜいぜい息が切れてますが,小さくガッツポーズをしてパドックに引き上げていきます。
よし,よし!
うーん,まだまだ詰めの甘いところはあるけど,自分のできることはやった。
良くやった,がんばったな,オッサン。
そしておとーさんの後のお2人にこのタイムは破られることなく,1本目はトップで終了。
上出来,上出来。
※これはギャラリー席から (撮影:180さん Special thanks!です)
・・・・・・
全日本で暫定1位になったこと自体はうれしかったけど,今はそんなことより,観客席へ急がねば。そう,N2クラスの佐川選手の走りをナマで観なければ。ナマ佐川を,ナマ逆Zを観なければ!(笑)
N1クラス,そしてN2クラス。そして佐川選手の走り。
クルマは以前と変わって白いDC2インテグラになってるけど,その走りは2005年と全く変わらない。凄腕ぞろいのN2クラスの中でもその走りは際立っている。思い切りキレが良く,それでいながら針の穴を通すような正確なコントロール。
外周を走ってきて,タイヤを鳴らしてギャラリー席の前に猛然と突込み,サッと左に折れ,すぐにまた右にサッとターンして,ものすごいトラクションで走り去る...観客席もみな「おお〜っ」とどよめきます。
おとーさん,全身鳥肌立てて泣いてました。ビデオを撮りながら泣いてました。
何だこれは,何だこの感動は。
クルマの走りっていうのは,ここまで人を感動させられるものなのか。
速さ...だけじゃない。ワザ?
速さを突き詰める中で自然に生じる美しさ?
レースのようにただただ速く走るっていうのでもなく,ドリフトのように最初から「見せる」ためのものでもない。そのものを狙ってるんじゃない,1000分の1秒を削り落として行く過程でにじみ出てくる自然な美しさ...?
ああ,自分はまだ全然だ。全然ダメだ。足元にも及ばない。
でもいつかはこんな風に走りたい。勝ち負けじゃなく,人を感動させるような,記録じゃなく記憶に残るような,そんな走りをしたい。
よーし! おとーさんも2本目はもっとキレの良い走りをするぞ。
ナマ佐川を目の当たりして大感動したおとーさん,さらにさらに気合が入ってきます。
・・・・・・
お昼の慣熟は短めに。それよりも,さっきの佐川選手の走りをイメージしながら,自分の走行のイメトレを繰り返します。
1本目は暫定トップですが,2本目は必ずみんなタイムを上げてくるはず。おとーさんも少なくとも1秒はタイムを上げないとあっさり逆転されます。
ただ,考え方としては「1秒縮める」というよりも,佐川選手の走りに「近づける」というカンジ。
どうやったらあんな風に走れるのか。
どうやったらあんなキレを作り出せるのか。
どうやったらあんな風に鮮やかにGを切り返せるのか。
考えて考えてイメトレを繰り返します。
そして徐々に気合が入ってきたところで2本目スタート。
さあ,泣いても笑ってもこれが最後。
今年の後半からおそらく1年ぐらいは競技活動休止を予定しているおとーさんにとっては,もうホントに最後のビッグイベントかもしれない。悔いのないように,現時点で自分の持ってる全ての力を出し切ろう。そして少しでも佐川選手の走りに近づこう。みんなを「おおーっ」と言わせるような走りをしよう。
※入魂の2本目 (撮影:やまもっちゃん,実況:みっちゃん,Special thanks!)
...とにかく攻めました。精一杯攻めました。これ以上の走りは無理です,っていうぐらい。
ストレートからイトウ工業への突込みではギャラリーが「おおーっ」っていうぐらい突っ込んでます。S字の2つ目も,もちろんノーブレーキです。
しかしさすがにタイヤがタレたのか,外周でタイヤ1本分アンダーが出て一瞬コースアウト,復帰する時にひっかかりタコってしまい大きなタイムロス。逆Zも2つ目の右でサイド不発気味。
結果的には1秒のタイムダウン...でも悔いはない。
やるだけのことはやった。自分にできる精一杯を尽くした。これ以上はもう無理。
※縁石を思いっきりショートカットして飛んでるところ(撮影:みっちゃん Special thanls!)
・・・・・・
とりあえずまだ1本目のおとーさんのタイムを誰も破ってないため,暫定1位の状態でパークフォルメ(車検場)に入ります。
コルトのとのちゃんが「お疲れ〜」と声をかけてくれます。
2人でしゃべりながら,おとーさんの後の2人の結果を待ちます。
以下,偶然スイッチを切り忘れた車載ビデオが記録していた感動の瞬間(首なし)です(笑)。
「1番...1番かよ,信じられん」そう言いながらフラついてますね,オッサン(笑)。
向こうからN2クラスのM田さんも全力疾走で走ってきて祝福してくれました。
とのちゃん,M田さん,ありがとうございました。
同じS1500クラスのみなさんからも握手してもらいました,ありがとうございました。
TOYOタイヤの方も,ウィナーキャップを持ってきて下さいました。ありがとうございました。
他にもいくつかの雑誌社の方からインタビューしていただきました。
...おとーさん,勝ってしまいました。全日本で。
昨日までは挑発的な笑みを浮かべていたジムカーナの女神様が(なぜかエリカ様のイメージ --笑--),今日は飛びっきりのチャーミングな笑顔をおとーさんに見せてくれてます。「オッサン,45歳でキモいけど,よくがんばったわね(笑)」そう言ってくれてます。女神様は本当にいるんだな,そう感じました。
...職場では中間管理職,普段は疲れきっててもうヘロヘロ。
...家に帰っても今一つ家族からはリスペクトされない冴えない中年オヤジ。
...才能なんてない。体力もない。知力も最近衰え気味(笑)。
...時間もないし,お金もない。
...練習会出られない,本番もスポットしか出られない,嫁さんの理解もない(笑)。
それでも,ただただクルマの運転やクルマいじりが好きでここまで来ました。
勝てるんです。
こんなオッサンでも,一生懸命やれば勝てるんです。
案外,ジムカーナの女神様は親父フェチなのかもしれません(笑)。
今回,自分が勝てたこと,ナマ佐川選手を観られたこと,それ以外にも嬉しいことがいろいろ。その一つが,同じデミオで走るけどJAFから全日本クラスとしてちゃんと認められてる「PN1クラス」に,この大会だけの特設クラスであるS1500が,全く見劣りしない戦いを見せられたこと。向こうはバリバリの全日本選手にSタイヤだよ。それが優勝タイムではたったの1秒差!
決してラジアルタイヤのジムカーナが,レベルが低い,初心者オンリーの,単なるお楽しみクラスではないこと,ラジアルタイヤのジムカーナでも,ほとんどSタイヤと変わらない,全日本レベルの走りができるということ,モータースポーツとして全く遜色ないことを,おとーさん自身が証明することができました。どうだ,ラジアルでもここまでできるんだ!
表彰式の優勝者インタビューでもこのことを強調しておきました(笑)。
今後ラジアルタイヤのジムカーナが正当な評価を受け市民権を得ていくために必要な役割を,この不惑おとーさんが少しでも果たせたとしたら,ジムカーナドライバーとしてこれ以上の喜びはありません。
Sタイヤを止めラジアルで走ることで,全国のたくさんのジムカーナドライバーが引退の瀬戸際から救われる,競技者人口の減少にストップをかけることができる,おとーさんはそう信じてますから。
※45歳のオッサンが熱唱!私は足が臭いのだ〜!(撮影:180さん Special thanls!)
このあたりでそろそろ,この長い長いレポートの筆を置こうと思います。
動画の編集をしたりしながら書いていたため予想外に時間がかかってしまいました。
アップを待っていて下さった方,最後まで読んでくださった方,ありがとうございます。
GWも今日でもう終わり。明日からまた仕事です。
またあのいら立ち,疲れ切った日々が帰ってきます。
それでもおとーさんは生きて行きます。そして,生きてる限り走り続けます。
「全日本出場」がこのProject不惑の最終目標だったのは確かです。以前はそこでProjectを終わりにしようかと思ってました。
しかし,まだまだ終わりませんよ ( ̄ー ̄)。
走ることと,書くこと。
この2つがおとーさんの人生を支えてくれてるんですから。
たくさんの友人,先輩,クラブ員,ショップの社長さん・代表さん...そして家族と共に。
みなさん,おとーさんに人生最高のプレゼントをありがとうございました。
この勝利はおとーさんの人生の新たな「宝物」です!
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