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どっか遠くへ行こう


いよいよ10月ですが。

妙に暑い日があったかと思うと翌日には急に寒くなったり,お次は台風がやって来たり...相変わらずワケの分からないお天気ですね。

月末のJMRCオールスター戦に向けて...というわけでもないのですが,デミ助はへたったLSDのオーバーホールのためショップ入りしてます。もともとコントロール性重視でCUSCOのMZタイプを選んでいたのですが,今回は立ち上がりで効きの良いRSタイプに組み替えてみることにしました。どのように感触が変わるのか楽しみです。

あとは交換サイクルの来ているエンジンオイルを来週あたりに換えて,外してある本番用のエアクリを洗って干して装着,ついでにプラグ換えて,本番1週間前になったらリアのドラムを開けて中を清掃すれば準備おっけー...かな?

本当はオールスター戦前にショックのオーバーホール&仕様変更もしたかったのですが,もうお金がなかったり,お金がなかったり,お金がなかったりするもんで今回は断念。まだ今の足でもタイムは出てるので何とか腕でカバー...するほどの腕があるのか大いに疑問(笑)。年末か年始には来期に向けてO/Hに出す予定なのでよろしくお願いします>AZUR星人さま。


...日々のお仕事では,もう,泣きたくなるほど辛いことイヤなことが毎日いっぱいですが,それでもこうやってクルマのことを考えてると明日に向かって生きて行く力が沸いてきます。

やっぱりクルマが好きなんですねえ。クルマを運転することが大好きなんですねえ。


・・・・・・

先日,夢を見ました。


夢の前半はよく覚えてないし,カンケーないのでパス。
気がついたら,子供時代のおとーさんが友達何人かと上り坂を登っていました。

大きな山の中腹で,ふもとから頂上近くまでずっと街が広がってます。だから上り坂つっても,険しい山道とかではなくって,街全体が坂になってる感じ。ちょうど六甲みたいな感じかな。

実はおとーさん,神戸は六甲の生まれ。1歳で大阪に引っ越したけど,母親の実家が六甲なのでその後もしょっちゅう行き来はありましたし,記憶の底に「坂の街」が刷り込まれてるようで,よく夢にこういう坂の街の情景が出てきます。


友達とわいわいふざけながら,階段を上ったり,狭い路地を抜けたり,どんどん坂を上って行きます。何か頂上近くのホールのようなところでイベントがあり,そこを目指してたような気がするのですが,よく覚えてません。あるいは遠足のような,坂を上ること自体がイベントだったのかもしれません...


何だかみんなでワイワイやってるうちに気がついたらもうイベントは済んでいて,場面はもう帰り道。上ってきた道をまたみんなでボチボチ下って行きます。

しかしさすがにみんなくたびれていて,上りのような元気がありません。

「しんどいよー」
「足だるいよー」
「何か乗り物ないのー?」

ぶーぶー文句を言いながらも,さっき上ってきた階段やら路地やらをまた下って行きます。
足の指にマメができたみたいで,一歩一歩痛みます。膝がガクガクいって力が抜けそうになります。ホントにしんどいよー。


...するとその時,目の前の道路に大きな観光バスが走ってきてキキーっと停まりました。

「お〜,みんな乗っていきや〜」

と,運転席から顔を出したのは,おとーさんの叔父さんでした。


・・・・・・

この叔父さん,おとーさんの母親の弟に当たる人。

とても子供好きなオッチャンなんですが,残念ながら奥さんとの間に子供ができず,その分,甥にあたるおとーさんやおとーさんの弟をずいぶん可愛がってくれました。


おとーさんの一族は父方も母方も何故かクルマに乗る人がほとんどおらず,おとーさんと,弟と,ウチの母親が50歳を過ぎてから一念発起して免許を取った以外は,誰も免許を持っていません。ところがこの叔父さんは若い頃にいち早く免許を取ってサニーやブルを乗り回すクルマ好きで,一族に何かイベントあった時はいつもみんなの運転手の役割をしてくれてました。

おとーさん達が大阪に引っ越してからもしばしばクルマで遊びに来てくれて,いろんな所にドライブに連れて行ってくれました。だからおとーさんにとってはこの叔父が週末に遊びに来てくれるのが楽しみで楽しみで,叔父が帰って行く時には,大通りに出て行くまでずっと後を追いかけて行って,クルマが見えなくなるまで泣きながら手を振り続けてたそうです。


おとーさんが小学生になっても中学生になっても高校生になっても,家族誰もクルマに乗る人はおらず,当然に家にクルマはないため,たまにこの叔父のクルマに乗せてもらって釣りに出かけるのがおとーさんの大きな楽しみでした。行く先は海釣りであったり田舎の釣堀であったりいろいろでしたが,叔父のクルマの助手席に乗って,誰もいない深夜〜早朝の海沿いの道や峠道をかっ飛ばして行くのは全く「非日常」の特別な体験で,とてつもなくワクワクする時間でした。釣りそのものよりもずっとずっと楽しいぐらいに。


でも,大学に入って自分でも免許を取りクルマに乗り出すと,一家の運転手の役割はもう叔父ではなくおとーさんの役割になり,叔父のクルマに乗せてもらうことはなくなりました。そのうちおとーさんに続いて母親も弟も免許を取り,やっと我が家も普通の一家になりましたが,かつておとーさんの特等席だった叔父のクルマの助手席からはどんどん遠ざかってしまいました。


そして社会人になり自分の生活がどんどん忙しくなり,叔父とも祖父母の法事で1年に1回会うかどうか...なんて状態の中,叔父は50台半ばの若さで,ある日突然心筋梗塞で亡くなってしまいました。もうあの叔父のクルマの助手席に乗る機会は永遠に失われてしまいました。


・・・・・・

あれからもう15年かな...なんて夢の中では考えません。
それでもどこかに「叔父さん,久しぶりだー」っていう気持ちはありました。

懐かしいニコニコ顔の叔父に促されてみんなバスに乗り込みます。

こんなバス運転してるって...いつの間に大型2種免許なんて取ったんだろう...なんてことも夢の中では考えません。でもこの叔父,大型特殊っていうの? 仕事で使うユンボとかブルドーザーとかの免許持ってたから大型2種ぐらいは本当に持ってたかもしれない(笑)。


「よーし,ちゃんと乗ったかー? 出発するぞー!」

この辺がやはり夢の中,何故か車内のシートはみなSP-Gタイプのフルバケで(笑)4点ベルトまで完備してる。友達が「何じゃこりゃー?」と戸惑う中,おとーさんは素早くベルトを締めて,周囲の友達の手助けをします。もちろんおとーさんの席は叔父さんの隣の助手席です(観光バスに助手席があるのか?...夢の中ではあるんですよ!)。


ぎゃぎゃぎゃ〜っとホイールスピンしながら走り出す大型観光バス。
大排気量ディーゼルエンジンの動力特性なんて,夢の中では完全無視(笑)。

走り出してしばらくのストレートと高速コーナーも,ものすごいスピードでクリアしていきます。でも不思議と全然怖くない。タイヤが思いっきり鳴ってても,気持ちはワクワクしてる。


「ここからコーナーが続くからなあ,しっかりつかまっとけよ〜」

と言いながら叔父はコーナーに突入して行きます。しかも結構なオーバースピード。

をいをいをいこれで曲がれるのかよ,なんて思ってる瞬間,バスはぐらっと大きくアウトにロールして,叔父はがーんと遅めのブレーキを一発かまし,その途端にバスのリアがざざざーっとアウトに流れ始めます。手の平ステアでぐりぐりカウンターを当てる叔父。

ひえ〜,こんなバスでドリフトかよ〜!

でも「怖い」とか「すごい」とかそういう気持ちではなく「わっはっはー!」と大爆笑したい気分。

横を見ると叔父も「わっはっはー!」と笑ってる。ハンドルぐりぐり回しながら笑ってる。

後を見ると友達もみな「わっはっはー!」と笑ってる。

楽しい! すごい楽しい! クルマって楽しい!


みんなで大爆笑してるうちに大型観光バスはきれいにコーナーをクリア。その振り返しでもって次のコーナーに向けて直ドリ状態で突っ込んで行きます。まるでマンガの世界。でもそんな感じで,連続ドリフトのまま,いろは坂みたいな山道をどんどん下って行きます。みんなもう楽しくって楽しくって,イニD状態のバスの車内で笑い転げてます。

そのうちにシートの取り付けが緩んで外れたのか,みんなシートに座ったまま,シートごと本当に車内をゴロゴロし始めます(あり得ねー)。その様子がまた可笑しくってみんな転がりながら大笑い。ベルトはどうなってるのかとかの突っ込みNGで(笑)。

叔父もカウンター当てながら「みんなFRやないとドリフトはしにくいとかいうけど,観光バスは基本構造がRRやから腕さえあったら簡単にドリフトできるんやー」と大笑いしてます。


・・・・・・

でも,楽しい時間はすぐに終わりが来ます。

麓の駅に着いたらしく,バスが停まります。

「よーし,みんなお疲れさーん!」

叔父がバスの乗降扉を開け,友達は一人一人叔父に礼を言いながらバスを降りて行きます。


おとーさんもベルトは外したものの,別れの感情が胸にこみ上げてきてシートから立ち上がれません。何故かここで初めて「叔父はもうずいぶん前に亡くなったんだ」ということが頭に蘇ってきて,もうこれが本当に最後,ここで久しぶりにこうやって助手席に乗せてもらったのが本当に最後,もう叔父には二度と二度と会えないのだ,という気持ちで胸がいっぱいになります。


「もう叔父さんのクルマには乗れないの?」

目に涙をいっぱい溜めながら尋ねるおとーさんに,叔父は

「そんなことないよ,また来るよ。またどっかドライブ行こう。どっか遠くへ行こう。」

そう言って,手をとってバスから降ろしてくれました。


扉が閉まり,走り出すバス。
思わず後を追って走り出すおとーさん。

でもバスは次第に遠く遠くなって行きます。

おとーさんはその方向に向かって手を振りながら叫びます。
涙でぐしょぐしょになりながら,いつまでも叫び続けます。

また行こうね! どっか遠くへ行こうね!


・・・・・・

そこで目が覚めました。
夢を見ながら本当に泣いていたらしく,起きたら顔が涙でぐしょぐしょでした。

きっと子供時代,おとーさんはいつもこうやって,帰っていく叔父を見送ってたんでしょうね。


子供時代のおとーさんにとって,クルマを自在に運転して,いつでもどこでも「どっか遠くへ」連れてってくれる叔父は憧れの人でした。そしてクルマを自在に運転していつでもどこでも遠くへ行けることが「大人の男」の条件でもありました。

自分もクルマを自在に運転できるようになる。
いつでも行きたい時に「どっか遠くへ」行けるようになる。

それが自分の人生の目標の一つでもあったわけです。


大学に入ってすぐに免許を取り,格安の中古車を手に入れて実際に自分で走り出して,もう四半世紀になります。

いろいろな街を走り,いろいろな峠を走り,いろいろな海辺を走り,いろいろなサーキットを走り,北米大陸の東の果てまで自分のクルマで走ってきました。

人生の目標は達成できたのかな...?


...いやいや,まだまだ ( ̄ー ̄)。

どっか遠くへ行こう。
自分のクルマで。
一人でもいいし,大事な人とでもいい。
もっと遠くへ行こう。
もっともっと行こう。


小さい頃に叔父が教えてくれたクルマに乗ること,クルマに乗ってどっか遠くへ行くことの楽しさは,今もおとーさんの心の底に染み付いてます。

もっともっと走って...もっともっと遠くへ行って...

いつか誰かの夢の中で,観光バスで完璧なブレーキングドリフトをかます...それがおとーさんの目標なんです。


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