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峠にて


おとーさん,最近あんまり峠に「残業」に行かなくなりました。

いや,もちろん「本業の残業」が忙しくって峠行くヒマがないというのもあり。

でも,峠で危険を冒して必死で走り込んでも,そもそもジムカーナのコースとは条件が違い過ぎるので,ジムカーナの本番タイムがそんなに縮まるわけじゃない,ってのが大きい。

いくら気をつけて走ってても,何か予測不能の要因で事故ることだってあり得る。うっかり刺さったり落ちたりしてクルマを失ってしまえば,嫁さんにブン殴られて,もうジムカーナは完全引退ですよ。だからって安全マージンをたっぷりとって走ってたんじゃ,あれこれ試すこともできないし大した練習にもならない。もちろん道交法は遵守しないといけないし!(ホントか?)


しかし。

それでも,本番前に某南コースとか某ヶ原とかに走りに行く時間がない場合,ちょっと走る感覚を取り戻しておきたいとか,ちょっと足回りのセッティングを調整したいとか,サイドの具合を確かめておきたいとか...そういう時にはやはり峠に行きます(結局行くんかい!)。

もちろんタイム測ったり,誰かとバトルするとかじゃなくって,軽く「流す」だけですけどね。道交法は厳守しないといけませんから!(ホントだな?)

それに,それだけじゃなく,峠って,時々ぶらっと走りに行きたくなるんですよね。

だから「あんまり行かなくなった」とは言っても月に何回かは帰りに地元の峠をぶらっと通ったりしてるおとーさんなのです。


・・・・・・

これは今年の8月ごろの話。

ミドル戦の本番数日前,長らくタイヤの限界内でしか走ってなかったので,ちょっとタイヤを縦・横に使い分ける感覚を思い出すため,仕事が終わった後で寄り道しました。たいていは人っ気のない山奥まで行くか,思いっきり地元の峠に行くんですが,この日はちょっと小さいRのコーナーを走りたかったので,職場から比較的近い峠に向かいます。大阪の走り屋なら誰でも知ってる有名なところですけどね。


上の駐車場にデミ助を停め,エア圧を本番用に調整,ショックの減衰を確かめ,両手首には練習の時にいつもつけてるウェイト(1.5kg)をつけて,さあ,ぼちぼち走り出します。

まだ時間が早いのでたまーに対向車が来ます。絶対にセンターを割らないように気をつけて,対向車が来たら減速して,おとなしーく流しながら,コーナーの進入や立ち上がりではタイヤが路面とコンタクトする感覚に集中します...うーん,やっぱりカンが鈍ってるなぁ。


軽ーく1往復して駐車場に戻り,タイヤの温まり具合とエア圧を確認,フェンダーに手を突っ込んでショックの減衰を変えてたら...駐車場にそれっぽいクルマが1台入ってきました。

ミラージュかな...いや違う,4ドアのシビックフェリオだな。型式はEK4だったかな...それでもエンジンはB16Aだったはず...なんて思いながら見てたら,すーっとこっちに寄って来て,運転席のウインドーが開いて若いお兄ちゃんが顔を出します。

「大丈夫っすか? 手伝いましょうか?」

おお,何と気さくなお兄ちゃんだろう。おとーさんがフェンダーに首突っ込んで何かやってたので,トラブルかと思ったらしい。

「ありがとう,大丈夫。ショックの番手を変えてるだけだから (´ー`)ノ。」

「ああ,そうっすか。了解です〜 (^ー^)。」


・・・・・・

その後,彼はちょっと離れた所にクルマを停めて,走行準備をしてるみたいです。でもまだ「走り屋」が走るには全然早い時間帯。駐車場には他にもそれっぽいクルマが2-3台停まってますが,みなクルマの中で何をやってるんだか,降りてもこないし走り出しもしません。ゴールデンタイムまで仮眠中でしょうかね。

これから深夜までずーっと走るんかいな。熱心なやっちゃ。エエやっちゃ。

何かに熱心な若者ほど清々しいものはない。
峠にこういう若者がいる限り日本はまだまだ大丈夫(何じゃそら)。


勝手なことを思いながら,おとーさんぼちぼちまた走りに行きます。

今度はフロントのショックを本番並みに固めてみたんですが,何だかまだフロントタイヤの接地感をつかみにくい。エア圧が上がり過ぎたかな...っつーか,自分の感覚の問題だな(汗)。

一往復して,駐車場に帰ってきて,クルマを停めます。ぶつぶつ言いながらエアを再調整,少しクルマが冷えるのを待ちます。さっきのシビックの彼は走りに出たみたい。でも今の復路でおとーさんとすれ違わなかったから,駐車場よりも上のコースに行ったのかな。


クルマが少し冷えてから,エア圧を確認。そろそろもう1本行きましょう。
駐車場からデミ助を片側1車線の道路に滑り出させます。見える範囲内で一般車の灯りがないのを確認,一つ目のコーナーを曲がったところでスロットルを開けようとします...

と,その時,後からすごいスピードで迫ってくるクルマが。

ヘッドライトの形状から判断するとさっきのシビックの彼っぽい。
上のコースから下りてきたのかな。

減速して後を見ていると,おとーさんの後についてハザードを2回。そしてもう一度2回点滅。

ここの峠のバトルのルールは知りません。昔は知ってたけどとっくに忘れた。

でもこれは「 ( ̄ー ̄) 」のサインだよね? 確かきっと(笑)。
o(`ω´*)o 」じゃないよね,ね?


よーし,ちょっとモンでやるか...ふふふふふ ( ̄ー ̄;) ←汗出てる
もちろん道交法の範囲内で(ウソつけ)。

いずれにせよまだたまーに一般車の走ってる時間帯なので,センターを割ったりするような危険行為は絶対できませんし,彼の腕前も分かりません。こっちはあくまで本番数日前の慣らしで来ているので無茶してクルマがトラブったら大バカだし(こんなとこ走ってるだけでも十分バカだが)。楽しくランデブー走行と行きましょう...ふふふふふ。

どっちにしたって向こうは天下のVTEC。原典版のB16Aとはいえ,エンジンパワーではデミ助のお買物車用1500ccエンジンなんて全く相手にならない。道交法厳守のため(しつこい)高速コーナーやストレートでは無理せず,いくつかある低速コーナーの突っ込みと立ち上がりでモンでやろうかな。

と思って,こちらもハザードを返し,次のコーナーからスロットルを踏み込んで走り出しましたが,なかなかどうして差がつかない。本当にランデブー走行じゃん。モンでやるか,じゃなくって,こっちが後からつつかれてます(笑)。

ふふふふふ... ( ̄ー ̄;;;) ←すごく汗出てる

だんだんバックミラーを確認する頻度が増え,コーナリング精度も粗くなってきます。
道交法遵守のはずでしたが,ちょーーーーっとだけ遵守してなかったかも(ちょっとか?)。
何か本気で走ってないか? おっさんよぉ。


結局ほとんどランデブー走行のまま下の転回点まで行って折り返し,そのままおとーさんが先行で引き返します。ハザードを焚いて合図し,次のコーナーから復路のスタート。


さあ,ちょーっと本気出しましょう。

アプローチでタイヤを縦に使い,短い区間で車体の向きを変え,タイヤを縦に鳴らして脱出。
おっさん,マジで本気走りしてねぇ?

今回はジムカーナの本番と同じセッティングになってますから,デミ助のリアはちょっとピーキーですが,ここの峠はそれでもちょうどいいぐらい。リアをちょっと振り回し気味にして,フロントで走ります。チラッと後を振り返るとさすがに少しだけ車間が開いてます。

ふふふふふ...見たかおっさんパワー ( ̄ー ̄;;) ←ちょっと汗が引いた


と思ったところで前方の一般車両に追いついてしまいます。すぐにハザードを焚いて減速。

そしたらそのクルマが路肩に寄って避けてくれたので,「すんません,すんません,すんません」と言いながら前に出て,そしたらそこで対向車がまた1台。こりゃあもうここでバトル終了ですね。これ以上無茶できません。


・・・・・・

駐車場に戻ってからお互いの腕を賞賛します。「速いね〜」「いやぁ,そちらこそ〜」このへん,まるで現役の峠屋に戻ってます。いい年して本当にバカなおっさんですね(恥)。

彼のシビックはやはりB16Aエンジンの4ドアフェリオ。デフは入ってないし,ミッションはATだよ。タイヤも普通のラジアルタイヤ。それであの走りなら立派なもんだ。ここを走り慣れてるとはいえ,ちゃんとクルマをコントロールできてた。

そのうちに彼のお友達という2人の若者もやってきて,若人3人とおっさん1人で峠のクルマ談義に花が咲きます。クルマ好きが集まると年齢なんか関係なし。U川ラインでは誰が速いの,6甲ではどのクルマが速いの,話す内容は20年前と全然変わらない。

また彼らと話していると,峠ではジムカーナドライバーが意外にリスペクトされていることが分かりました。おとーさんも競技やってて,実は今日は本番数日前の慣らしに来てたんだなんてこと,また言わなくてもいいのに言うから,若人から 憐れみの 尊敬の目で見てもらって,得意げな顔して,やっぱり大バカなおっさんだ。


いい機会なので彼らにはしっかり「ジムカーナせえへんか?」とリクルート活動してきました。

S1500ええよ,ミドル戦のGTクラスええよ,そのままで走れるよ,楽しいよ。何より,峠でこんな危険なことをしなくても腕をどんどん磨ける,勝てば表彰される,賞品もらえる,こんな嬉しいことないよ,表彰台のてっぺんに立った日にゃ人生観変わるよ...って,峠で危険なことしてるお前が言うなってことなんですが(汗)。

最後には舞洲での練習会情報まで押し付けて,「あんまり遅うなったら嫁さんに怒られるから帰るわ〜」と帰って行ったおとーさんの後姿を彼らはどういう気持ちで見送ってくれたのか。

「40代になっても本気で競技で走ってて,それでも時々峠を忘れず来てくれるなんて,すごいカッコいいっすよ,憧れますよ〜」とシビックの彼は言ってくれたけど...50代でもっとカッコいいオヤジ,知ってますよ。


・・・・・・

街中を走っていても,どこまでも真直ぐに続く高速をかっ飛ばしていても,クルマの運転はそれ自体が楽しいものです。

でもクルマが高性能になり,普通に運転する分にはドライバーが実際に行う動作はどんどん減ってきてます。言い換えれば,クルマが勝手に走ってくれるようになってきてる。シフトは勝手にやってくれる,スロットルも勝手に調整してくれる,最近じゃ車庫入れやってくれたり,ステア操作やブレーキングまでもクルマが勝手にやってくれるようになってきてる。とっても便利だけど,これじゃあクルマを自分で「運転」する,「操縦」する楽しみはどんどん減ってしまう。

それでいい,クルマは便利な移動手段であればそれでいい,そういう人はそれでよろしい。でも,どんなにクルマが便利に,高性能になっても,クルマは自分の手足で運転したい,「操縦」したい,そういう人はいるのよね。おとーさんもそう。そしてきっとこれを読んでくれてるあなたもそうだよね?

街中や高速を普通に走ってて,クルマの運転が楽しくないわけじゃない。でも今の高性能なクルマを,クルマに「乗せられる」んじゃなく,ドライバーが主体的に「操縦」しようと思っても,街中や高速じゃとても周囲の交通事情が許さない。危ないよね,そんなの。


だからいつの時代になっても純粋にクルマの運転が好きなヤツは峠へ行く。
そりゃサーキットへも行くけど,タダじゃないし,いつでも開いてるわけじゃない。

峠には様々なRのコーナーがある。短いストレートもあれば複合コーナーもいっぱいある。アップダウンもある。路面もバンクしてたりうねってたり適度に荒れてたりする。そこを自分のペースで走ることには,街中では失われてしまった,クルマを運転する楽しさ,乗り物を意のままに操縦する喜びがある。高性能な現代のクルマに「乗せられてる」んじゃなく,「乗ってるんだ」という実感がある。

峠を走るのは,刺激やスリルを求めてるわけじゃない。
単にドキドキする体験を求めてるわけじゃない。
スピード出してスッキリしたいとか,そんなバカはいない。
いや,そういう人もいるかもしれないけど(笑),そういう人はすぐに刺さったり落ちたり転がったりして峠からいなくなる。


でもね。

峠は言うまでもなく一般道です。

約20年前,おとーさんは峠で結構大きい事故を起し,たくさんの大事なものを失いました。
そしてそれをきっかけに峠を本気で走るのは止め,競技の世界に足を踏み入れました。

人間って,自分で危険なことはしてないつもりでも,気がつけば危険な領域に入っていることはあるんです。明らかに危険,明らかに安全,そういう区別は誰でもつきますが,危険か危険じゃないかのグレーゾーンは素人であればあるほど広いもの。そして,腕を磨こう,速さを追求しよう,そう思えばどうしてもそのグレーゾーンに踏み込まざるを得なくなります。

事故は時に人の命にも関わります。
自分だけじゃなく,全くの他人の命もです。
命を失わなくたって,たくさんの大事なものを失います。


これまで散々悪さしておいて今さらおっさん臭い,偽善者的なことを言いますが...

峠は楽しく走るところです。
バトルしたっていい。仲間とつるんで走ったっていい。
自分の限界内であればガンガン攻めたっていい。あ,道交法の範囲内でね(笑)。

でも絶対に堅気の一般車に迷惑かけたらアカン。

地元の人たちにも迷惑かけたらアカン。

そして自分自身も事故ったらアカン。

事故りそうやったら無理すんな。事故りそうなぐらい走り込むな。
事故るぐらいだったら,競技の世界に入りましょう。

特にジムカーナ競技は峠の技術が即・適用できます。っつーかだいたい速い人はみな元・峠屋さんだし(笑)。○○峠では無敵だったとか,そういう人がいっぱいいます。本当に運転の技術を磨きたければ,いらっしゃ〜い!

※ジムカーナ入門はこちら→「大人のためのジムカーナ入門




「峠」というと忘れることのできない「イニD」についても,また今度語ってみようと思います。


そうそう,「峠」といえば先日ネット上を徘徊していて素晴らしいサイトを見つけました。


特に創作小説「走り屋のココロ」は近年ネット上で出会ったストーリーの中でもダントツ!です。次の日は仕事で早く起きないといけなかったのに,おとーさん,思わず時が経つのを忘れて深夜まで読みふけってしまいました(笑)。

主人公の女の子のやってることの是非はともかく(笑),「走り屋のココロ」と銘打つだけのことはある,本当に走り屋の心の機微をうまく表現してくれてます。随所に出てくる技術的な話もしっかりした勉強と経験に裏打ちされたものに感じます。続きがアップされるのが楽しみです。

みなさんも読んでみれば「そうそう,そうなんだよな」「自分にもこういうことあったなぁ」と思われること請け合い。おとーさんの最近のイチオシです。


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