峠へ行こう 〜その1〜
毎夏,不惑一家はドライブ旅行に出かけます。
GWごろから夫婦で今年はどこに行こうかと相談するわけですが,今年はおとーさん,どうしても遠くへ行きたかった。思いっきり遠くまで何も考えずにクルマをぶっ飛ばしたかった。走ることでクルマと競技に関して胸の中でモヤモヤしているものを吹っ切ってしまいたかった。
...とにかくどっか遠くへ行くってなると,おとーさんにはずーっと以前からぜひクルマで行ってみたかったところがあるんですよ。それはね...
日光いろは坂。
180度折り返しのタイトターンがこれでもかというぐらい連続する峠の中の峠。
ジムカーナのコースにそのまんま急勾配をつけたような,関東随一のダウンヒルステージ。
いや,某漫画の影響がないといえばウソになる。でも某マンガで有名になるもっと以前からその存在を知ってたし,ずーっと自分のクルマで走ってみたいなと思ってたんですよ。
それだけじゃない。
関西方面から日光へ行くとなると途中で長野や群馬を通って行くことになる。それならば,ぜひもう一つ走ってみたい峠が。それは...
碓氷峠。
国内の有名ラリードライバーの多くがここで腕を磨いたという伝説の峠。
機関車ですらそのままでは上ることができずアプト式という特殊な駆動方法を要した急勾配。
ここも某漫画の影響がないといえばウソになるけど,某マンガ以前から何度も話に聞いたことがあって,ずーっと自分のクルマで走ってみたいなと思ってた。
別に夜中に走りに行って地元の走り屋とバトルしようとか交流を深めようとかいうんじゃないですよ,もちろん。
とにかく自分のクルマで走って,自分の目で確かめたかった。
だから昼間ののんびり走行で十分。
そりゃ本当はデミ助で行きたかったけど家族車のBMW 320iツーリングでも結構ワインディングを楽しめる。MTのデミ助じゃ嫁さんが運転できないしね。
「日光に行きたい日光に行きたい日光に行きたい日光に行きたい」と毎日お経のように唱えるおとーさんの熱意に嫁さんも負け,今年の夏旅は日光方面3泊4日の旅にケッテーイ! もちろん内情は「北関東有名峠めぐりの旅」だということは内緒だぞ。
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本当は4時起きだったはずが,起きたらもう5時。今年はしょっぱなから出遅れました(笑)。ただ,初日はとりあえず軽井沢まで走って一泊するだけなので例年の旅行ほど急がなくってもOK。子供達に支度をさせ,6時ごろぼちぼち出かけます。
出発の時間が遅くなったこととお盆入りのため高速の交通量は多く,随所で流れが悪くなります。それでも道はずんずん東に進み,助手席と後部席で眠りこける嫁さん子供を連れてクルマは中央道に入っていきます。
昨年の秋にゴルフ・トゥーランから乗り換えた家族車BMW 320iツーリングは,4気筒のオーソドックスなNAエンジンながら,さすがに「駆け抜ける喜び」というキャッチフレーズを掲げるだけあって足回りとシャシーバランスがすこぶる良く(試乗した印象ではエンジンの重い325や335よりバランスは良いかもしれない),重い車体を「ぐいぐい引っ張る」ほどではないものの,中央道のワインディングっぽい路面を軽快に駆け抜けていきます。
不惑家の新しい家族車320iツーリング。これは碓氷峠にて (画像をクリックすると大きい画像を表示します)
中央道も交通量が多く,所々でクルマが連なって走る状態になってしまいますが,何だかいつになく気持ちに余裕があるため,イライラすることもなく車間を保って距離をこなして行きます。
中央道から長野道,上信越道と乗り継ぎ,途中で1回だけ間違ってインターを降りてしまうというミスをやらかしましたが(笑),しばらく国道を走って次のインターに入って事なきを得ました。
昼過ぎには無事に軽井沢に到着。お約束の渋滞に辟易しながらもいったん軽井沢中央部を抜け,ホテルのある北軽井沢に向かいます。
まずは浅間山麓で定番の鬼押出しや火山博物館を見学。
浅間山は標高が2500mもある日本有数の活火山。「日本で最も危険な火山の一つ」ということで火口付近への登山は禁止されています。天気が良いと迫力のある姿を見せてくれるのですが,この日は時々小雨がパラつくあいにくのお天気。火山も腰から上がスッポリ雲に覆われてしまってます。これではしょうがない。早めにホテルにチェックインしてしまいましょう。
高校生の息子と2人,ホテルの室内プールをがんがん泳いで足がこむら返りになったりしながらもまったりした時間が過ぎて行きます。
夕食のバイキングも,子供だらけのファミリーバイキングとは別の場所でゆっくり静かに食べることができ,風呂はこれまたこってりした濃厚な温泉。ここ数か月,心と身体に溜まった澱のような疲れが湯の中に溶けて流れ出していく。あー本当にくつろぎます。
さあ,明日はいよいよ碓氷峠。
ビール飲んで早めに寝てしまいましょう。
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さあ旅の2日目。
ホテルを出たらまずは軽井沢を南に下り,軽井沢駅付近を目指します。この北軽井沢から軽井沢中心部に向かう道も結構な峠道。碓氷峠へ向かう前にちょうどいいウォーミングアップになります。
軽井沢中心部は既に渋滞気味。アウトレットなどのある南側には近づかず,そのまま東に向かいましょう。
碓氷峠はここから群馬県の横川まで一気に下る峠道です。旧国道,新バイパス,上信越道と3通りのルートがあるわけですが,ここでおとーさんが向かうのはもちろん旧国道。バイパスなんて通っちゃわざわざここまで来た意味がない。
しかしナビで普通に行先を日光に設定すると旧国道を通るルートが一番優先順位が低い。しかもナビのマップでも一目で分かるぐらいぐにゃぐにゃのワインディング。ナビなんてなくても大丈夫なんですが念のため日光までのルートを設定しようとして交差点で止まるたびにナビをいじってたら,
「あんたこのややこしい峠道を通るつもりやろ!」
イッパツで嫁様にバレてしまいました(笑)。
いや,「眼鏡橋」っていう史跡を見たいから...
とか,
バイパスはきっと混んでるから...(ウソ)
とか,
お昼を食べる予定の釜飯屋がこっちの方角だから...
とか,微妙な言い訳をしながら,結局ナビは無視して,なし崩し的に旧国道に突入(笑)。
さあ初めて走る碓氷峠。
道路の勾配はそれほどでもないけど大中小さまざまなコーナーがずーっと連続して,ストレートらしい部分がほとんどない。幅は2車線分はしっかりあってしかも距離が長い。なるほどこれは確かにすごい峠だ。
前半部分はうっそうと茂る木立に覆われた林間コースが中心。山の中の旧国道だけあって路面は結構荒れてる。路面そのもののうねりやバンプは少ないけど,アスファルトが剥離したり割れてたり,山から砂が出てたり山道らしい荒れ方。これはサスの固いクルマだと跳ねて走りにくいだろうな。
ただコーナーは完全にランダムではなく,大きく左に曲がって,細かい左右のコーナーが3-4つ連続してからもう一度大きく左に曲がって,細かいコーナーがまたいくつかきたら今度は右に大きく長く回り込んで,といった感じのリズムがあって走りにくいことはない。完全ブラインドのコーナーは時々出てくるぐらいなんで,ある程度のショートカットは許される。これはいいな。走ってる間にだんだん楽しくなってくるような道。
こういう道路のレイアウトって,もちろん地形的な要素とか,降水量,積雪量なんかの気象条件とか,どのくらいでかいクルマが走るかとか,どのくらいの交通量が予想されるかとか,いろいろな要因で決まってくるもんだろうけど,ここ碓氷は六甲とか箕面とか関西の峠とは明らかに違うリズムを持ってる。
おとーさんが時々思うのは,峠のワインディングって楽譜に似てるな,ってこと。
だいたいの通るべき流れと区切りは指示してあるけど,実際にその中にどんな軌跡を描くかはドライバーの自由。ゆったり大きく奏でてもいいし,細かくせかせか奏でてもいい。流れそのものを楽しんでもいいし,正確さや技術を追求してもいい。繊細に奏でてもいいし,パワー任せで力強く奏でてもいい。まあもちろん実際の走行は安全や法規順守が前提だけど (;・∀・)。
そういう観点で見ると,ここ碓氷峠は「美味しいセレナーデ」っていうイメージ(意味不明)。
因みに六甲は緩急の効いた「シンフォニックロック」,箕面は「こぶしの効いたポップス風演歌」,阪奈道路は「超高速アダージョ(???)」ね。なんじゃ,そら。
某マンガで有名なC121コーナーでクルマを停めて記念写真を撮ろうかと思ったけど,路肩の駐車スペースは伸びた夏草で覆われており断念。でもこのコーナー,確かに大きく左に回り込んだ上に出口が狭くなってるので「バトル」という意味では重要なコーナーかもしれないけど,走っていてもっと「美味しい」コーナーは他にもいっぱいあったように思う。
峠を2/3ほど下ったところで某マンガでも描かれている名勝「眼鏡橋」に到着。ちょっと手前に駐車場が新しく作られていて,そこからすこし歩けば眼前にあのレンガ造りの4連アーチが現れてくる。ちょうどそれっぽいシルビアとスープラの2台連れがいい音を響かせて走ってきたのでパチリ。
お盆シーズンだけに観光客も多く,みんなぞろぞろ橋の上まで登って行きます。交通整理のおっちゃんまで立ってるぐらい。ただウチの家族は誰もそこまで行こうとはしないため断念。
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頭上を覆っていたうっそうとした木立が左右に開け,周囲の視界が広がって,峠道もそろそろ終わりに来たことを知らせます。ああ楽しかった。こんな峠が家から近くにあったら毎日でも走りに行きたいな(おバカ)。
峠を下りきったところにあるのがこれまた某マンガで有名な「おぎのや」。峠の釜飯の元祖,本家本元。おとーさん一家もここで早めの昼飯にします。
しかしまあ混んでること混んでること。中はフードコート形式になってて,釜飯だけじゃなくって普通のファーストフード風のものもいろいろ売ってます。何とか空いてる席をゲットしますが周囲は人だらけで,何だかスキー場のロッジの昼飯時のような有様。
釜飯はさすがに本家だけあって具だくさんで美味い。結構いい値段しますけどね。
おぎのやの有名な看板の下で池谷先輩にならって男泣きしてるところを記念撮影しようかなと思いましたが止めときました。ここまでわざわざ来ただけでもう既に十分おヴァカですから(汗)。
代わりに,これまた某マンガに出てくる妙義の奇岩をおぎのやの駐車場からパチリ。しかし角度が悪くあまり写りが良くないので,帰りに横川SAから撮り直したものをアップしておきます。
さあ,群馬県を横断して日光に向かいましょう。ナビの提示するルートに従ってとりあえず上信越道に。しかしここで衝撃の事実が。この後,乗り継いで走り抜ける予定の北関東道が桐生から先で事故のため大渋滞とのこと。
しかし。
災い転じて福となす。
転んでもタダでは起きない。
人生塞翁が馬(もういいって)。
SAにクルマを停め,こういう時こそナビには頼らず(懲りた)紙の地図をパラパラめくり,
「もうこれは赤城山を越えて奥日光に回り込むルートしかない!」
などと叫んでみたり。
しかし瞬時に嫁様に地図を奪われ,頭をスパンと一発はたかれ「ウソつけ!」と却下されるわけです(笑)。
「アンタに任しといたらどんな峠道走らされるか分かったモンやないわ!」
おっしゃる通りでございます。
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助手席の嫁様に睨まれながら最寄りのインターを降り,足尾銅山を抜けて真っ直ぐいろは坂の下あたりに向かう(正規の)抜け道国道ルートを走り始めます。
国道を走りながら左手には赤城山の眺望が広がる...はずですが,天気が悪く雲に覆われてしまってほとんど見えません。未練がましく何度も何度もそちらの方向に目を向けますが,怖い顔した嫁様に睨み返され肩をすくめてステアリングを握り直すおとーさんでした。
しかしこの「銅山街道」もなかなか快適なドライブルート。渡良瀬川沿いにゆるやかなワインディングがずーっと続いていきます。クルマ任せにのんびり走って気がつくともう県境を越えて栃木県に入ってます。銅山跡を過ぎて長ーいトンネルを抜けたらもうそこは日光。
着いたのはちょうどいろは坂のすぐ下なんですが,今日はとりあえず坂を上がらず日光の市街地を抜けてホテルのある鬼怒川温泉に向かいます。
東武ワールドスクエアなど鬼怒川近辺の観光をしながらホテルに到着。周辺のミンミン蝉の大合唱を聞きながらチェックイン。早めに食事をいただき,家族でカラオケを楽しんで明日に向けて英気を養います。
さあ明日はいよいよこの旅の目的地。いろは坂。
わざわざ大阪からやってきたこのバカなおっさんをいろは坂はどんな顔で迎えてくれるんでしょうか。
温泉は熱い目ながらさらっとしたクセのない湯。露天風呂にどっぷり浸かりながらも,おとーさん,胸の高鳴りを抑えられません。
<峠へ行こう その2 につづく>