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続・真夏の夜の物語


※今回もクルマと全然カンケーない話です(笑)。
怖い系のお話なので,そーゆーのが苦手な人はパスして下せえ。



深夜の病院のトイレで,何かに反応して勝手に水が流れる,っちゅう話を前回しましたな。
前回は小便器でしたが,今回はDai便器の話です(笑)。

もちろん今回も,間違いなくおとーさん自身の実・体験談です。


まだ不惑おとーさんが今の職について間もない頃...もう十ウン年前になります。


日本海に面した寂れた港町。戦前はサナトリウムだったという,どこか暗い翳のある古ーい総合病院。若かりし日のおとーさんは半年間の研修のため,ここに勤めておりました。


暑い暑い夏が過ぎ,少し涼しくなった頃...たぶん9月の中旬ぐらい。
半年間の研修が9月末で終わり,10月からはまた大学病院に戻る,その直前の頃の話です。


半年間に担当した患者さんのサマリーを書くために,おとーさん,遅くまで外来の診察室で居残りをしておりました。もちろん,同僚も上司も看護婦さんもみんな帰った後,一人ぼっちです。
もう十ウン年前のこと,サマリーなんてPCでちょちょっと打ち込んでオシマイ...なんて時代ではなく,紙のカルテにボールペンでひたすらカリカリ書き込んで行くわけで,何十人もの患者さんのサマリーを書くのは非常に時間のかかる作業でした。


カロリーメイトをぼりぼりかじり,缶コーヒーをすすりながら,ひたすらカリカリ書き込んで行きますが...なかなか進みません。テキトーにちゃちゃっと書いてしまえばいいものを,妙にこういう所だけ几帳面なもんで(汗)。

夜中の12時を過ぎても,まだせいぜい20人分ぐらい,半分も行ってないか,って感じでした。


その日はちょうど前日に台風が日本海上を通過したところで,台風の名残の風が強い日でした。

何せ古い病院ですから夜になると外来の空調は全部ストップ。窓を閉めてると9月とは言えジワジワ暑くなってきますので窓を開け放していたんですが,あまり窓を広く開けすぎると風がビュービュー吹き込んできてカルテのページをめくり上げてしまいますし,ちょっとだけ開けていると,狭い隙間を風が通る時のピュ〜っという風音がうるさいし...結局,何度も窓を開けたり閉めたりしてるうちに面倒くさくなって,窓はピタリと閉めてしまいました。

ふと気がつくと,外来の外からもピュ〜っという風音が聞こえます。
外来を出てすぐ隣,外来の建物の端っこにトイレがあって,そこにも窓があります。他のローカの窓は全部閉まってるはずなので,たぶんそこの窓が半開きになってて風が鳴ってるんでしょう。ちっ,うるさいなぁ,後でトイレに行った時にでも閉めとこう...


時計は1時を過ぎ,2時も過ぎ...もう3時になろうかっていう頃になっても,作業は遅々として進みません。っつーか,手はペンだこで痛くなってくるし,目もしょぼしょぼ。時々イスから立ち上がって伸びをしますが,肩も背中ももうゴリゴリです。

あ〜あ,明日も普通に朝から仕事あるし,もう今晩は止めて寝ようかな...

と思った時。

不意に,外来の外から聞こえる風の鳴る音がまた気になり出しました。

ぴゅぅぅ〜,ひゅぅぅ〜っていう音は,人の悲鳴のようにも泣き声のようにも聞こえて,あまり気持ちのいい音ではありません。

ちょうど尿意を感じていたところだったので,オシッコ行って窓閉めてこよ,とイスを立ち上がって外来から暗いローカに出ました。


・・・・・・


やはり風の音はトイレの窓からのもののようです。

階段をはさんで暗いローカの突き当たり,そのトイレの方から,ぴゅぅぅ〜,ひゅぅぅ〜っていう気味の悪い音が聞こえてきます。

ちっ,誰や。窓開けっ放しにしとるヤツは。うるさいんじゃ,この風音 (--メ)

何せ,

死後の世界?霊の存在?... (´゚c_,゚` ) プププ

っていうぐらい,現実主義者のおとーさんですから,これっぽっちも「怖い」という感情は持たずに,無邪気にトイレのドアを開けて中に踏み込みます。

電気のスイッチを入れますが...点きません。
ローカの電灯も消えてますし,どこかにブレーカーがあって,夜間は切られてるんでしょう。

ちっ,うっとおしいトイレやな!

まだ,怖いという感情は全然ありません。窓から外の薄明かりが入ってくるだけの真っ暗なトイレに平気で入り込んで行きます。

やはり風が鳴ってるのはここの窓でした。
Dai便用の個室の中に,外に面した上下開きの窓があり,10cmほど開いたままになっていて,そこから風がぴゅーぴゅー吹き込んで大きな音を立ててます。

やっぱりここかい。

とりあえず窓の方は放っといて,小便器に向かい,じゃーっと用を足します。

あー,スッキリした。

スッキリしたところで,小便器に向かい合っているDai便用の個室に入り,窓を閉めようとしますが...何かひっかかったようになっていて,なかなか閉まりません。ガタガタ窓を揺さぶっているおとーさんをあざ笑うかのように,窓から風が吹き込んで,目の前でぴゅうぅぅぅ〜と気味の悪い泣き声をあげます。

このやろぉ!

いささか腹が立って来て,馬鹿力でもって無理やりにバタン!を窓を閉めました。
ガチャン,と乱暴に窓の鍵をかけて個室から出ます。

急にシーンと静まりかえる深夜の真っ暗なトイレの中...
空気の流れが止って,にわかに空気が重く粘っこいものに感じます。
何だか無数の小さなうごめくものがトイレの空気の中に潜んでいて,それらが一気にこちらに押し寄せて来ようとしているような,説明のしようのないもの凄い圧迫感を感じます。

...さすがのおとーさんも気持ちが悪くなって,そそくさとトイレを出ようとしました。
ドアに手をかけて開けようとしたその時です。







バタン!

...振り返ると,さっき確かにこの手で閉め,鍵までかけたはずの窓が,また半開きになってます...

そしてまた,

ひゅうぅぅぅぅぅぅぅ〜...ぴゅうぅぅぅぅぅぅぅ〜...

と苦しげな,悲しげな泣き声を出し始めます。


うげ...( ̄ー ̄;)
オンボロ窓めぇ...

さすがのおとーさんも相当ビビリましたが,それでも,窓が勝手に開いたのは,オンボロで鍵が壊れてるからだ,と思って,気丈にももう一度窓を閉めに個室のところまで行きます...

すると...





がばぁ〜!

...今度は,誰もいないそのDai便用個室の中で勢い良く水が流れました...

ええ,ビックリして泣きそうになりましたよ (;´д⊂)
さっきオシッコしてなかったら確実にオモラシしてたでしょう f(^-^;)


Dai便用便器の水は,レバーを手でひねるか壁のボタンを押さない限り勝手に流れることは考えられません...この時点でやっとおとーさん,悟りました。

今,このトイレで起こっていることは,普通の出来事ではない。何かとてつもなく異常な事態が起こっていて,この場に居合わせるのは非常にヤバいのではないか...

そして,おとーさん,大事なことを思い出したんです。
いつもよく知っていたことなのに,この日は何故か...本当に何故か,忘れていたことです。

何年か前に,自殺か事故かは分かりませんが,トイレの窓から転落して患者さんが亡くなった事件があったと。そしてそのトイレの窓はそれ以後,開かないようにネジで留めてあったということを。

そして,そのトイレこそ,このトイレなんです(本当の話です)。


みんなはわりにそのトイレを避けていたようなんですが,おとーさんは夜でも平気でそのトイレを使ってました。きっと普段から使ってたので,そういう曰くつきの場所であることをコロっと忘れてたんでしょうね...


あわててトイレから駆け出して,外来に走って戻り,慌てて荷物をまとめて寮に帰りました。
外来を出る時にはまたあの風の音が

ひゅうぅぅぅぅぅぅぅ〜...ぴゅうぅぅぅぅぅぅぅ〜...

ローカの奥から追いかけるように聞こえて来ます。
耳をふさぐようにして外来の建物を駆け出し,同じ敷地内の寮に帰りますが,自分の部屋に戻ってからもあの音がずーっと耳に残ってしまい,結局全く眠れませんでした。


さすがのおとーさんも,次の日から昼間でも絶対にそのトイレには近づかなくなりました。
外来に遅くまで一人で残ることも止めました。
あのトイレの窓が本当に壊れていて,再び開くようになっていたのかどうかは今でも不明です。確かめてみたくもありませんし。

ただ,あの時「ヤバい!」と感じた感覚は確かだと思ってます。何が起こっていたのかは分かりませんが,どうも普通の感覚では説明のつかない異常な事態になっていた,そう思うんです。

こんな経験をしていながら,今でも夜中に病院のトイレに平気で入って行けるおとーさんって,頭壊れてますかね?(笑)


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